—瀬田院長が医師を志された、最初のきっかけをお聞かせいただけますでしょうか？

元々、私の実家が医師で、父も医師だったという環境がありました。自然と、父の背中を見て医師の道へ進むことを決めました。大学は東京慈恵会医科大学で学び、卒業後は慶應義塾大学病院や関連病院などで経験を積みました。

—開業されるまでの過程で、企業活動やアプリ開発といった医療以外の多様な経験を積まれたそうですが、それは現在の医療観にどのように影響していますか？

医療業界から離れた社会経験は、私の医療観を形作る上で非常に重要でした。特に、医療者が患者様に対して一方的に治療を指示するパターナリズム（父権主義）的な考え方ではなく、患者様自身が治療を選び、納得することが大切だと痛感しました。企業活動では、他の会社様との対話やリスペクトが不可欠であり、この経験が、患者様とのコミュニケーションや、医療における「人との輪」の重要性を深く理解させてくれました。

—「再生医療 x 難病」を臨床テーマに掲げ、2020年にクリニックを設立された経緯について教えてください。

臨床現場で通常の保険診療を行う中で、治らない難病など、既存の医療では救いきれない領域があるという現実を目の当たりにしました。私は、新しい医療に挑戦したいという思いから、回復が難しいとされる神経難病に対し効果が期待できる再生医療にたどり着きました。まだ救いきれていない患者様を治すことを目指し、この新しい分野を専門とするクリニックを設立しました。

—クリニック名に込められた思いにも通じると思いますが、日々の診療で患者様と接する上で、最も大切にされていることは何でしょうか？

「患者様と一緒になって病気に立ち向かう」という姿勢を最も大切にしています。治療の主役は、医師ではなく患者様ご自身です。患者様がどのような未来を望み、どんな思いで治療に臨んでいるのかを丁寧に傾聴し、コミュニケーションを取ることが、治療の第一歩だと考えています。

—難病を抱える患者様が多い中で、治療を続けていく上で、特にどのような点に注意されていますか？

当院には、ALSや脳梗塞の後遺症など、他の病院で「もう何もできない」と診断され、諦めて来院される方も少なくありません。そのような患者様に対しては、まず「まだできることがある」と希望を伝えることを意識しています。そして、患者様が抱える不安や疑問に対し、常に真摯に向き合い、一緒に病気に立ち向かうという姿勢を崩さないよう注意しています。

—開業当初から、新しい分野での挑戦には困難があったかと思いますが、最も苦労されたエピソードをお聞かせください。

開業当初は、再生医療という分野自体の認知度が低く、医師の間ですら十分な理解が得られていない状況でした。そのため、信頼を築き、理解を広げていくことに苦労しました。しかし、実際にALSや脳梗塞の患者様の症状が改善し、治療の成果が確実に出せるということが分かってきた時、これは本物だと確信しました。そこからは地道にデータを取り続け、成果を発表することで、懐疑的な見方をされていた状況を少しずつ変えてきました。

—患者様の症状が改善し、笑顔が見られた時が、医師としての喜びを最も感じる瞬間でしょうか？

まさにその通りです。当院に来られる患者様は、本当に藁をも掴む思いでいらっしゃいます。最初は半信半疑だったり、諦めの気持ちがあったりする方も多いです。しかし、治療を重ねるうちに、身体の動きが良くなり、患者様自身の笑顔が戻ってくるのを見た時、「本当にすごいですね」と言われる瞬間が、医療者として最も幸せを感じる時です。

—経営者としての立場から見て、日々の運営で最も大切にされている考え方やポリシーは何でしょうか？

経営においても、目標の明確化を最も重視しています。スタッフとの対話を通じて、この施策が「何を目的にしているのか、どこを目指しているのか」というゴールを必ず設定します。これは、患者様に対して「何のために治すか」という目的意識を共有することと同じです。目標を明確にすることで、スタッフ全員が同じ方向を向いて動けるようにしています。

—近年導入されたシステムやサービスの中で、特に優れていると感じるものはありますか？

やはりAI（人工知能）は、現代の医療現場で導入すべきだと考えています。医療情報や個人情報の問題で躊躇する方もいますが、使い方を間違えなければ、非常に優秀な「秘書」のような存在になってくれます。AIを答えを出すものではなく、情報調査やリサーチ、思考の幅を広げるツールとして最大限に活用することが重要です。もう使わない理由はないと考えています。

—今後、クリニックが目指すビジョンや、再生医療にかける夢についてお聞かせください。

再生医療という分野でエビデンスを積み重ね、世界にその治療法を広げていくことが目標であり夢です。私たちが提供する再生医療は、従来の高額な治療に比べ、コストを大幅に抑えることが可能です。これにより、今まで費用やアクセスが難しかった方々も含め、誰もが再生医療を身近に受けられる社会を実現したいと考えています。

—誰もが再生医療を享受できる社会の実現には、どのくらいの期間が必要だとお考えですか？

この分野はまだ新しい領域であり、国レベルでの認識も不十分なため、慎重なアプローチが必要です。しかし、AIなどの技術進歩により研究が加速しているため、数年（5年程度）の期間で、私たちの研究結果がこの分野のキーとなる部分を解明できると見込んでいます。最終的な社会実現には時間がかかるかもしれませんが、私たちは研究と臨床の両面から前進し続けます。

—最後に、これから医師を目指す方々や、新しい挑戦をためらっている同業の先生方にメッセージをお願いします。

私の経験から言えるのは「なせば成る」ということです。新しい環境や分野に踏み出すのは勇気がいることですが、やらないと何も始まりません。まずご自身の目標をしっかり定め、「何のために開業し、何をしたいのか」という軸を持つことです。そして、あとは動き出すことです。多少の失敗はあっても、目標があれば前に進めます。医師としての高い能力を信じ、恐れずに挑戦してほしいと思います。