医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
「痛み」に真摯に向き合い、地域医療に貢献する医師の挑戦
医療法人社団三慈会 三慈会痛み治療クリニック
院長 渡部 晃士
本日、お話を伺うのは、札幌市東区の医療法人社団三慈会 三慈会痛み治療クリニックで院長を務める渡部 晃士 先生です。痛み治療を専門とし、患者様の生活の質(QOL)向上に尽力されています。麻酔科医としての豊富な経験を活かし、特に高齢化社会において増加する慢性疼痛の患者様に対して、「痛みを軽減し、普通の生活を取り戻す」という目標を持って診療されています。開院から半年という短い期間で、医療従事者の採用や薬の確保など、多くの困難を乗り越えてこられた渡部先生に、医師を志したきっかけから、クリニックの運営、そして今後の展望まで、熱い思いを伺いました。
—まず、医師という職業を志したきっかけについて教えていただけますでしょうか?
実は、明確な大きなきっかけというのは、あまりないのです。物心ついた時には、もう医師というものがある、という感じでした。親も医師でしたので、その影響もあったかと思いますが、気づいたら医師の道に進むレールが敷かれていたという面はあります。
—渡部先生の専門領域について、改めて教えていただけますでしょうか?
私の専門領域は、主にペインクリニック全般と、そこから派生した麻酔です。現在、麻酔科医としての手術麻酔は、ほぼ行っていません。
—麻酔科から「痛み治療クリニック」という専門領域に注力し、開業されるに至った経緯についてお聞かせください。
大学卒業後、ずっと麻酔科をやっていました。手術麻酔がメインだったのですが、その中で、痛みのコントロールがしっかりできた患者様は、術後の回復がとても早いということを常に感じていました。手術後の回復が早いと、患者様も喜ばれますし、医師としてのやりがいにもつながります。 そうした経験から、大学の異動も含めて、ペインクリニックという分野に関わるようになりました。麻酔科医は手術麻酔がメインなので、患者様から感謝の言葉をいただく機会はあまり多くないのですが、外来でペインクリニックをやるようになると、痛みが取れて感謝されたり、「また普通の生活が送れるようになった」と喜んでいただけたりして、これが自分にとって楽しい診療科だと感じたのです。 また、高齢化が進み、慢性的な痛みに悩む方が非常に多いという社会背景もあります。痛みを軽減することで、患者様が日常生活を取り戻せるようになる。私が持っている麻酔の技術を活かして、地域の医療に貢献できたらという思いが強くなり、痛み治療に特化したクリニックを開きたいと考えたのが、開業のきっかけです。
—特に、渡部先生が専門とする「脊髄刺激療法」によって、患者様の生活が劇的に改善するケースを目の当たりにされたとお伺いしました。
はい。難治性の疼痛で、どこに行っても治らないと困っている方に対して、私の得意とする脊髄刺激療法を行うと、痛みが軽減され、それまでできなかった買い物や友人との食事、さらには排泄なども自分でできるようになるなど、生活の質(QOL)がかなり改善する患者様を多く見てきました。感謝されると、やはりやって良かったなと思います。痛みが取れると、本当に生活が全く変わりますね。
—医療業界では人手不足が課題だと聞きますが、クリニックのスタッフ採用状況はいかがでしょうか?
おかげさまで、オープニングスタッフは全員、知人からの紹介や、本院(釧路三慈会病院)で一緒に働いていた人が来てくれたので、採用で困ることはありませんでした。ただ、医療事務のスタッフが不足していた時期があり、求人を出していたのですが、なかなか応募が来ませんでした。結果的にはハローワークを通じてとても優秀な方に来ていただけたのですが、今後は採用に苦労するだろうという心配はあります。特に北海道では、医療従事者が減少傾向にあると感じています。
—新しいスタッフの方への教育はどのようにされていますか?
当院のスタッフは、開業前に本院のペインクリニックで1週間ほど研修を受けてもらいました。ペインクリニックでは、神経ブロックなどの特殊な手技を扱うので、すぐに現場で始めてもらうのは難しいと考えたからです。研修を通じて、ペインクリニックの診療の流れや手技を学んでもらいました。今後も、本院での研修や、クリニック内で時間をかけて覚えてもらうなど、育成体制はしっかり整えていきたいと思っています。
—開業から現在に至るまでで、特に苦労されたエピソードがあればお聞かせください。
一番苦労したのは、集客ですね。今でも苦労しています。札幌は本院がある釧路とは診療圏が全く違うので、誰も知らない状態からのスタートです。 また、開業するにあたって困ったこととして、「物流の問題」がありました。ペインクリニックは局所麻酔薬を多用するのですが、当時はコロナの影響もあり、新規開業のクリニックには薬を回せないと業者から言われてしまったのです。在庫がないため出荷制限がかかっており、開業の1ヶ月前になっても必要な薬が全く届かないという状況でした。
—それは切迫した状況ですね。どうやって解決されたのですか?
最終的には、法人(三慈会)が長年使っている薬局さんに協力をお願いして、渋々ですが薬を融通してもらいました。個人で開業していたら、診療を開始できなかったかもしれないと思うと、法人としてバックにいてもらって本当に良かったと感じています。
—2〜3年後、クリニックはどのような姿になっていたいというビジョンをお持ちでしょうか?
そうですね、もちろん経営面では黒字化が目標です(笑)。患者様がいっぱい来てくれて、痛みが少しでも楽になる拠り所でいたいですね。地域の方だけでなく、近隣の病院やクリニックさんからも信頼され、「痛みのことは三慈会痛み治療クリニックに紹介しておけば大丈夫」と安心して任せていただけるような存在になりたいと思っています。
—経営者として、特に大切にされている考え方やポリシーはございますか?
このクリニックの院長として一番大切にしているのは、スタッフが主体的に、楽しく仕事ができる環境を作ることです。 以前、総合病院などで働いていた頃、看護師の離職理由として、「やりがいがない」という理由も大きいと感じていました。ある程度のやりがいや楽しさ、そして満足感があれば、多少大変でも頑張れると思います。スタッフたちが自分で考えて、良い意見を出しやすいような雰囲気を心がけています。私自身、クリニック経営は初めての「素人」なので、スタッフに任せている部分も多く、一緒にクリニックを作っていこうという雰囲気でやっています。
—最後に、渡部先生ご自身の「夢」や、今後の個人的なビジョンについてお聞かせください。
私個人の夢というか、目標ですが、法人全体として、ペインクリニックという分野を広げていきたいという思いがあります。当院の治療を通じて、患者様が痛みのない生活を取り戻す手助けをすることはもちろん、その治療を本州など他の地域にも展開できると良いと思っています。 個人的な話ではありますが、私は東京出身で、今は単身赴任でこちらに来ていますので、いつかは東京や関東近郊に分院ができ、そちらに戻るための大義名分ができたら最高ですね(笑)。ペインクリニックという治療を通して、本州の地域にも貢献できるよう、これからも尽力していきたいと思っています。
Profile
院長 渡部 晃士
渡部 晃士 先生は、2004年に順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属浦安病院で臨床研修医としてのキャリアをスタートされました。その後、静岡県立こども病院 麻酔科を経て、順天堂大学大学院 医学研究科(麻酔科学)に入学し、専門性を高められます。2012年には順天堂大学医学部附属浦安病院 麻酔科 助教、2017年には同病院の麻酔科 准教授に就任。2020年には板橋中央総合病院 麻酔科 診療部長を務められるなど、麻酔科医として最前線で活躍されました。2024年に釧路三慈会病院へ移られた後、2025年、医療法人社団三慈会 三慈会痛み治療クリニックを札幌市東区北6条東3丁目1-1 ダ・ヴィンチモール3階に開院し、院長に就任。長年の麻酔科での経験と、痛み治療への情熱を地域医療に注いでいらっしゃいます。