Interviewインタビュー

経営は医療の品質を支える裏方ではない--優美弘仁堂が貫く経営判断。 医療法人 優美弘仁堂 常務理事 松本琢也 氏に聞く、開業期・成長期・拡大期、そして次の時代へ。

SSCクリニック・SSCビューティークリニック / 法人名:医療法人優美弘仁堂

常務理事(形成外科・美容外科クリニック経営) 松本 琢也

医療法人優美弘仁堂は、SSCクリニック・SSCビューティークリニックを旗艦として、札幌を拠点として形成外科・美容外科の診療を展開してきました。1983年の創業(札幌スキンケアクリニック)以来、形成外科の臨床の積み重ねと検証を土台に、時代の変化に応じて診療の考え方と運用を磨き続けています。先端技術の導入・運用も継続し、レーザー治療は開院当初から臨床に取り入れて専門領域として蓄積を重ねてきました。 開業から診療体制の拡充、新技術の導入と事業化、そして次世代への承継まで——。 その歩みの中で、現在は同法人の常務理事を務める松本琢也氏が経営の中心に立ち、現場と経営の両面から意思決定に携わっています。 本稿では、創業期・成長期・拡大期の打ち手をたどりながら、変化する時代の中で、持続的な成長を可能にする経営観と同法人が貫く経営判断の実像に迫ります。

経営は品質の「後方支援」ではなく、品質を成立させる条件づくりそのもの–医療法人優美弘仁堂 常務理事 松本 琢也 氏インタビュー

経営の起点:前提の再定義

30年以上にわたり築かれてきた段階での体制を引き継ぐ形で、松本さんは8年前に経営の中心に立たれたわけですが、その際に、まず整えたものはありましたか? あるとすれば、どのあたりから着手されたのでしょうか?

当初は判断すべきことが多く、どうしても新しい取り組みに目が向きやすい時期でした。ですが私の場合は、「引き継ぐ」立場でもありましたので、まずは提供するサービスの質を揺らさないための土台づくりから着手しました。 具体的には、患者さまの満足度にあらためて耳を傾けることを意識しました。そのうえで、施術の水準、役割分担など、日々の運用に関わる部分から整えていったように思います。 医療は結果が注目されやすい一方で、患者さまからの信頼は日々の積み重ねで形になります。だからこそ、目立ちにくいけれど運用の基準を先に揃えることにしました。

まず「運用の基準」を揃えたということですが、ではその根底にある、大切にされている考え方はありますか?あるとしたら何でしょうか?

一番の軸は、「患者さまの不安を増やさないこと」です。 美容医療に限らず、医療は情報が増えるほど、患者さまはその多さに迷いやすくなります。だから私たちが大切にしているのは、選択肢を並べること以上に、患者さまが納得して判断できる状態をつくることです。 そのために、説明の組み立て方、同意の取り方、術後フォローの範囲や連絡のルールまで、患者さまの視点で一貫するよう整えてきました。 この「迷わせない設計」が揃っていると、現場の対応もぶれにくくなり、結果として患者さまの判断を助けることができ、医療の品質を守りやすくなります。

その「不安を増やさない」という軸は、日々の運用の中で具体的にどんな場面に表れますか?

わかりやすいのは、患者さまに「考える負担」を残さないようにするところです。医療側の都合や専門用語で押し切るのではなく、患者さまが判断しやすい順番と粒度で情報を渡す。これは説明の場面だけでなく、来院前後の運用でも同じです。 医療の本質は人と人との信頼の上に成り立つものですので、たとえば、問い合わせへの対応ひとつでも、曖昧にしない、理解しやすく返す、といった基本を徹底します。また、スタッフによって対応が変わらないように、判断が割れるポイントは事前に線引きを揃えておく。 患者さまから見て不安になるのは、医療の難しさそのものより、「どう整理すればいいか」といった不明の部分が原因であることが多いです。そうしたことから、私たちは、診療そのものの質だけでなく、「迷いを解く」運用を重視しています。

新たな展開と挑戦で問われた「判断軸の統一」:何を変えて何を守ったか

体制を広げ、新しい取り組みを形にしていく中で、特に難しかったことは何でしたか。いま振り返って、その局面で「必要だった」と感じるものは、具体的に何かありますか?

難しかったのは「拡大すること」より「揃えること」でした。人や取り組みが増えるほど、手順や判断のしかた、対応の内容に小さな違いが出やすくなります。 そこで必要だったのが、共有できる判断軸です。といっても、全員を同じ言葉で縛るという意味ではなく、迷いやすい場面で判断がぶれないように、拠り所を揃えるそうした統一が必要でした。 だからこそ、理念を掲げるだけで終わらせたり抽象的な業務にせずに、現場の判断に落ちる形にほどいていきました。たとえばマーケティング施策、カウンセリングの進め方、契約まわり、クレーム対応など、判断のよりどころを先に揃えることを大切にしました。 経営者だけで都度すべてを処理するのではなく、組織として同じ方向を向くように、判断のルールを確立していきました。

いまのお話にあった「判断軸を揃える(統一する)」という観点から見ると、松本さんにとって「経営」とはどんな役割を担う仕事でしょうか。一言で表すと何ですか?

一言で言うなら、「再現性」でしょうか。つまり、「質がぶれない状態を、組織として保つこと」を大事にすることだと思います。取り組みが増える局面では、判断の揺れがそのまま提供するサービス全体の品質に直結します。だからこそ、現場が同じ方向に判断できる状態をつくることが、経営の役割だと考えています。 そして、経営者だけが答えを握る形だと、現場はその都度立ち止まりやすくなります。だから、迷いが出やすい場面ほど、判断に必要な基準の用意や判断材料の揃え方、線引きを決めておく。そうして現場が同じ方向に判断できる状態を作るのが、経営の仕事だと思っています。 また、美容クリニックとして自由診療を扱う場面も、医療機関である以上、社会的な責任の中で意思決定には倫理と合理性の両立は欠かせません。いずれかに偏れば、現場の判断や運用に歪みが生まれます。そうならないよう、日々の意思決定を通じて、無理のない線引きを保つことも経営の役割だと考えています。 つまり、私たちの経営とは、単なるルールの管理だけではなく、組織が迷わずに行動できるように、方針を日々の運用に落とし込み、判断の線引きを少しずつ揃えていくこと。そうした積み重ねが、結果として提供する各サービスの品質を支える土台になっていると感じています。

ここまでのお話を踏まえると、経営が医療の品質に与える影響は小さくないと感じます。松本さんご自身は、経営の役割をどこに置いていますか?

品質は現場だけで守れるものではない、という実感があります。 現場が良い医療を心がけても、判断の線引きが曖昧だったり、情報の流れが整っていなかったりすると、安定して良い品質を提供し続けるのは難しくなります。 だから私は、経営は「医療の品質を支える裏方」ではないと思っています。品質を継続させる条件を整える当事者であり、その積み重ねが結果として患者さまの安心や満足につながっていく——そう捉えています。

経営の実務:再現性をつくる「運用設計」

経営実務において、労務・法務・広報・マーケティング・DXなど領域が広い中で、松本さんはそれらをどのように整理し、品質を安定させる運用に落とし込んでいますか? どんな優先順位で意思決定していますか?

現場の組織運営は、実際には法人の理念だけでは回りません。労務・法務・広報・DXといった経営実務は、いずれも「現場が迷わず、同じ品質を出し続ける」ための条件づくりだと捉えています。私が意識しているのは、部署ごとの最適化に閉じず、医療の品質に直結する運用をどう設計するか、という視点です。 私が直接関わる経営上の実務は、「場当たりの対応」ではなく、品質を安定させ、さらに高めていくための「作り込み」と「束ね」に終始しています。優先順位としては、まず安全性から始まります。そのうえで、クリニックのブランディングと現場の実態にズレが生まれないこと。次に、組織全体の価値を束ねて、各スタッフが迷わず判断できる導線を用意することですね。最後に、継続可能な運用負荷の範囲に収めること——この順番で整理しています。

いまのお話だと「運用設計」が重要だと感じます。再現性を上げるために、職種ごとの役割設計ではどんな点を意識していますか?

役割を固定しすぎず、現場が「横に広がる設計」を重視しています。たとえば美容ナースは施術だけでなく、院内外のマーケ担当者と連携してSNS運用や発信にも関わる。カウンセラーもマーケの理解を持ち、施術や商材の知識、流行への感度も含めて提案の精度を上げる。受付・クラークは接遇に加えてレセプトを担い、オペナースは機械出しに留まらず、医師と患者さまの間で意思決定や関わりを調整する。こうした職域設計も、結果として私たちの「迷わず回る運用」と「ぶれない品質」を支えていると感じます。

広報やマーケティングの施策は「攻め」に見られることが多いと思います。実際、SSCクリニックもSSCビューティークリニックもエッジの効いた打ち出しがある印象です。松本さんは、広報・マーケを医療の品質とどう繋げて考えていますか?

私は広報やマーケを、経営戦略としては重要視していますが、集客の技術だけだとは捉えていません。むしろ、患者さまの迷いを減らすための「期待値の設計」だと思っています。ここがズレると、現場でどれだけ丁寧に説明しても納得感が崩れてしまう。結果として、品質評価にも直結します。 美容医療のコンテンツにおけるSNS施策も多様で、「勝ちパターン」として流通するスキームを目にすることもあります。ただ、外見だけ飾られた中身が「クリニック風」に寄っているだけの施策も少なくありません。そうした施策を増やすより、「作り上げてきた私たちの品質が、同じ形で届く流れ」をつくる方が重要だと考えています。 だから、発信の際に「言っていいこと/言わないこと」を先に揃える。さらに「ここまでは約束できる」「ここから先は状況に応じて丁寧に説明する」といった整理を共有しておく。こうした前提が揃っていると、現場の説明と広告表現が同じ方向を向きやすくなります。そこは広報・マーケでも強く意識しています。そのうえで、SSCに通うことが単なる施術に留まらず、日々の暮らしのモチベーションや充実感につながる「きっかけ」になる。そう思っていただける発信の設計を心がけています。

DXについては、どこから手を付けるのが効果的だと考えていますか? また、松本さんが考えるDXの範囲(予約、窓口、院内連携、機器、オンライン診療など)はどのあたりを指しますか?

私にとってDXとは、何か新しいツールを入れること自体ではなく、「患者さまと現場の迷いを減らす運用」に置き換えることと考えています。その運用設計を前に進めるうえでは、医療法人の現場だけで抱え込まず、グループ内の別法人が担う経営支援(MS)機能とも連携します。医業に集中すべき領域と、仕組みとして整備すべき領域を分けて進めることで、品質とスピードの両方を担保しやすくなります。 予約や問い合わせ、術後フォローの導線、院内の情報連携など、迷いが生まれやすいポイントを先に潰していく。ここから着手するのが結果として一番効くように思います。 患者さまの不安が出やすいのは、医療の難しさそのものより、「次に何をすればいいか分からない」「窓口や判断が人によって違う」といった部分です。だから導線と判断の揃え方を整えて、誰が見ても次の一手が分かる状態にする。そうすると患者さまの不安も現場の負担も同時に下がり、結果として品質の再現性が上がると思っています。DXもツールを足すこと自体より、「品質が同じ形で届く流れ」を整えることに意味があると思っています。

医療法人とMS法人は、どのような関係性で機能しているのでしょうか?

医療法人とMS法人の役割分担に加えて、弁護士や社労士、必要に応じて弁理士などの士業とも連携しています。MS法人がDX推進、集患・広報、人材・学び直しなど、医療以外の実務領域を広く担っています。医療法人が医業を担い、MS法人が実務を推進する——この分担で、医療の品質に集中できる状態を確保しつつ、変化への対応速度も上げています。 士業が法的な基盤を整え、MS法人が実務を推進し、医療法人が医業を担う——こうした三位一体の体制によって、判断の質とスピードの両方を引き上げています。

医療法人の経営において、法務の守備範囲はどこまで広がっていますか?

法務の範囲は、行政規制やガイドライン対応に留まりません。労務管理、自費診療の契約、広告表現、個人情報の取り扱いなど、日常運用の随所に入ってきます。実務としては、弁護士や社労士などの士業とも連携しながら、線引きを先に揃えるようにしています。 医療は制度・規制・コンプライアンスなどのルールが絡み合う業種なので、ここを軽く見ると現場の善意ですら事故に転びやすい。だからこそ、診療以外の論点が増える前提で、最初に整理して設えておく必要があります。ここが曖昧だと、現場は迷い、結果的に品質にも影響が出ます。さらに新しい領域に踏み出すほど、契約・データ・責任範囲の線引きが重要になります。加えて、商標やノウハウといった知的財産をどう守り、どう活かすかまで含めて準備しておく必要があります。 だから私たちは、法務を「止めるため」ではなく、安心して前に進むための条件整理として機能させています。その延長で、知的財産は「守る」だけでなく「活かす」設計が問われる領域だと考えています。

「知的財産をどう守り、どう活かすか」というお話がありました。松本さんは、知的財産の管理・活用を経営の中でどのように位置づけていますか?

知的財産は、ブランドや技術の信頼を支える柱です。単に守るだけのものではなく、次の展開のための足場だと捉えています。 特許や商標といった権利はもちろんですが、実際の価値は、説明の型、治療の組み立て方、手技そのもの、教育の仕組み——そうした運用やノウハウの中にも積み重なっています。とくにAIの診療支援やカウンセリングの仕組みのように、形が見えにくい価値ほど、先に整理しておくことが重要です。 だから私たちは、守る領域を見極めたうえで、次に持ち出せる形にしておく。知財は「守るための手続き」ではなく、「つくり続けるための準備」だと思っています。士業との連携も含めて、単に守るだけでなく、次の展開に耐えられる土台として整える。そういう意味で、知財は経営実務の中でも重要な位置づけだと考えています。

次の時代へ:品質を更新し続ける「判断設計」

松本さんは、今「次の時代」を見据えるとき、経営として何を確立し、何を更新していくべきだとお考えですか?

私が意識しているのは、変化の中でも判断の粒度と基準が揃い、結果として判断の精度が落ちない状態を先に用意しておくことです。医療は技術も情報も常に進化しますが、患者さまが迷わず納得できる状態をつくる、という根っこの部分は変わりません。 だから理念を語るというより、判断の優先順位や線引きを、日々の運用として揃えていく。人が変わっても、拠点や取り組みが増えても、同じ方向で判断できる状態を更新していく——そこが経営の仕事だと思っています。

次の時代に向けて、これから強めていきたい取り組みやテーマはありますか?

新しい施策を増やしたり取り組みを増やすこと自体より、価値が「同じ形で届く条件」を増やしたいと思うのです。つまり、私たちのやり方を再現できる形に整えて展開したい。新技術や新サービスを扱うほど、品質や説明の組み立ては崩れやすい。だからこそ、提供する「約束」を先に定義して、運用で揃えておく。迷いが生まれない「型」を持ったブランドにしたいと思っています。 医療の中身だけでなく、患者さまとの接点や体験の設計でも差が出る時代です。そこにDXや広報、必要なら法務・知財も効いてくる。点ではなく全体を一つの運用としてつなげる——その設計を強めていきたいと思っています。

今後の展望として、医療法人優美弘仁堂は社会にどのような役割を果たしていくのでしょうか?

これから果たしたい役割は、医療を提供する場所に留まらず、医療が社会の中で迷わず機能するための仕組みを、実装側として提示していくことだと思っています。 私たちは約40年の歴史がありますが、その蓄積を「伝統」のように守るだけでは意味がありません。変化が前提の時代だからこそ、患者さまの満足の標準をしっかり守る仕組みとして設計し続ける。——そうした受け皿を更新し続けること自体に価値があると感じています。 また、医療は診療だけで完結しません。先に述べてきた考えと実践が信頼を左右する要素になっています。だからこそ、各領域や専門的分野を横断しながら、医業の一つの意義を社会の中で成立させるためのモデルとして提示する。華やかに新規事業を増やすことだけでなく、「どうすれば正しく前に進めるか」という条件を整え、それを運用として形にしていくことが、これからの私たちの役割だと思っています。

開業医へのメッセージ:覚悟を形にする「開業設計」

クリニック経営の現場で多くの経験を重ねてこられた松本さんですが、これから独立や開業を目指す方々に伝えたいことやアドバイスはありますか?

開業は、設備や資金を揃える話に見えて、実際は「何を守り、何をつくるか」を決める仕事だと思っています。診療方針、患者さまとの向き合い方、チームのあり方——その優先順位が曖昧なまま走り出すと、どこかで必ず無理が出ます。 私自身が大事にしていて、どの方とも共通なのではないかと思うのは、次の3つです。「妥協しない体制づくり・安全性を最優先にした運営・選ばれ続けるための戦略」これらをスローガンで終わらせず、日々の運用に落とし込むことがポイントになると思いますが、誰が見ても判断が揃うルール、迷いが出ない導線、崩れない線引き。医療の信頼は、こうした積み重ねでしか守れません。 そして、「すべてを自分一人の中で完結させようとしないこと」です。先生自身が開業される場合は、個人の能力だけで抱え込まないこと。必要な支えや仕組みは、個人の守備範囲の外側にあるものです。医療サービスの品質を安定して出し続けるための条件は、チームで整える方が強い。強い意思を持つ経営者と、それを現場で機能させる組織が揃ったとき、クリニックは初めて「続く形」になると思います。 また、開業はゴールではなく、世の中に対して「この医療をやっていく」と宣言する行為です。その宣言を持続可能な設計にしてから、前へ進んでほしいと思います。それが長く続く経営の第一歩であるはずです。その挑戦が、ご自身にとっても、これから関わる人たちにとっても、根付き良い未来につながることを願っています。

Profile

常務理事(形成外科・美容外科クリニック経営) 松本 琢也

医療法人優美弘仁堂 常務理事。1978年生まれ。SSCクリニック・SSCビューティークリニック等の運営に携わり、形成外科・美容外科領域の各クリニック経営を統括する。 専門医療の理解を土台に、診療体制の拡充、組織運営・拡大、新技術の導入・事業化、体制整備を推進。医業として、診療にとどまらない経営判断を横断的に担い、医療サービスの品質を軸にした運用設計に取り組む。国内に限らず各国での学会での活動・発信を続けつつ、ビジネスの動向を捉え、業界を超えたDXや新しい仕組みの実装にも積極的に推し進めている。 40年の札幌スキンケアクリニック(現SSC)の歩みとともに、美容医療に根差した環境で培った視点を背景に、次の時代に必要とされる医療のあり方と美容医療の枠を越えた価値のつくり方を探り続けている。

会社情報

医院名

SSCクリニック・SSCビューティークリニック / 法人名:医療法人優美弘仁堂

設立

1990年(札幌スキンケアクリニック)