医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
「自分の家族にできない治療はしない」Well-Being DENTAL CLINIC 院長の譲れない信念
Well-Being DENTAL CLINIC
院長 園延 昌志
今回は、東京都港区にクリニックを構える「Well-Being DENTAL CLINIC」の園延 昌志 院長にお話を伺います。予防歯科と経営への深い洞察力を持ち、常に患者様とスタッフの「ウェルビーイング(心身の健康と幸福)」を追求し続ける園延院長。その揺るぎない信念と、日本の歯科医療界における新たな挑戦について詳しくお聞きしました。
—園延先生が歯科医師を志された、原点となるきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか?
歯科医師を志したきっかけは大きく分けて二つあります。一つは、父親がサラリーマンだったのですが、幼い頃から「うちは貧乏だ」と母親に言われ続けていたため、私の中でサラリーマン=貧乏な家庭というイメージがついてしまったことです。もう一つは、叔父が歯科矯正の大学教授をしていたことです。叔父に「お前は器用だから歯科医師に向いているのではないか」と勧められたことが決め手となり、それならばやってみようと考えました。
—開業を決意されたのはどのような経緯からでしょうか?
私は元々、開業志向でした。まず研修医期間を終えた後、新潟の大学出身で東京の歯医者さんの実態が分からなかったので、東京で審美歯科、入れ歯、歯周病の各専門クリニックと、新宿の大型歯科医院の計4箇所に、曜日ごとにパートタイムで1年間勤務しました。これは、各専門分野や特徴によって、どのような歯科医院のスタイルがあるのかを学ぶためです。その中で、審美とインプラントに強みを持つ一つのクリニックを選び、そこに2年間勤務しました。
—開業後、特に苦労されたエピソードがあれば教えていただけますでしょうか?
大きく二つあります。一つ目は、開業して4~5年経った頃、スタッフによる横領があったことです。その時は一時的に人間不信に陥りました。二つ目は、コロナ禍で売り上げが一時的に半分近くまで落ち込んだことです。あと4、5ヶ月この状況が続けば潰れてしまうという中で、大変な日々でした。
—その苦境を乗り越える中で、治療方針に変化はありましたか?
コロナ禍の経験が良い方向に作用したとも感じています。このままでは潰れてしまうかもしれないという瀬戸際で、「潰れるのなら、自分の家族にできない治療は一切やらない」と自分のワガママを通す決断ができたのです。結果として、自分の家族に心から提供したいと思える治療だけを求める患者さんを大切にする、という現在のクリニックのコンセプトが明確に定まりました。
—患者様への診療において、特に意識されている点や大切にされていることは何でしょうか?
医療は「エビデンス(科学的根拠)」に基づいた治療を行うことが重要ですが、同時に「ナラティブ(物語)」、つまり患者様一人ひとりの背景や価値観を大切にすることも意識しています。当院ではトリートメントコーディネーターを置き、患者様の思いを深く掘り下げるカウンセリングを重視しています。
—具体的には、患者様のどのようなお話を伺うのでしょうか?
患者様には、まず「なぜこのタイミングで歯科医院に来ようと思ったのか」、「たくさんある中でなぜ当院を選んだのか」、「治療が終わった後にどのような状態になっていたいのか」といった、患者様側の理想をしっかりとお聞きするようにしています。
—現在、クリニックとして特に力を入れている診療分野について教えてください。
予防歯科に注力しています。特に低年齢のお子様のむし歯予防と歯並びの予防です。予防歯科は、早く始めるほど患者様にとってコストパフォーマンスが良いと考えています。お子様の頃から口腔機能(舌の位置や鼻呼吸など)を正しく育むことで、結果的に歯並びも良くなるというアプローチに力を入れています。
—診療を通じて、嬉しさややりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
患者様ご自身が、ご自身の健康観や口腔状態について、以前よりも向上したと感じてくださる時です。また、スタッフからは「このクリニックに入ったからこそ、人間的に成長できた」「成長する楽しさを知れた」といった言葉を聞ける時も、やりがいを感じます。
—現在、総勢40名近いスタッフがいらっしゃると伺いました。この体制をどのように運営されているのでしょうか?
はい、パートタイムも含めると40名弱のスタッフがいます。当院は「全社員経営」を掲げており、自分の仕事や職場を「やりがいのあるもの」「働きやすいもの」にするために、会社が何かをしてくれるのではなく、自分たちでそれを実現できるように考えてほしい、という方針です。
—その組織力を向上させるために、具体的にどのような取り組みをされていますか?
ビジネススキルに関する教育も取り入れています。また、毎月1回、診療を丸一日休診にして全スタッフで経営会議や症例検討会を行ったり、『7つの習慣』などの書籍を全員で読んで議論する読書会をしたりしています。これは、直接的な売上を作る活動ではありませんが、組織力を高めるために非常に重要だと考えています。
—これだけ大規模な組織となると、採用も大変だと思いますがいかがでしょうか?
当院では、毎年5人ほど辞めて5人ほど入ってくるのが現状です。これは、組織を生き物だと捉えると健全な代謝だと考えています。採用の際は、「当院は学ぶ機会が非常に多い」ということを明確に伝えています。「成長することが嬉しい」と思える人には良い環境ですが、「学ぶのが好きではない、本も読みたくない」という人には地獄だからやめた方がいい、と正直に伝えています。
—今後のクリニックのビジョン、特に5年後の目標について教えてください。
5年後には、私が診療の現場を離れ、理事長職(経営)に集中するつもりです。そのため、現在は幹部スタッフの育成に力を入れており、私が現場を離れても持続可能な体制を築くことが、創業した私の次の責任だと思っています。
—園延先生の経営理念は「ウェルビーイングを協創する」とのことですが、これにはどのような意味が込められていますか?
当院の経営理念は「ウェルビーイングを協創する」です。患者様、働く人(社員)、そして会社(社会)の三者が、共に心身の健康と幸福を追求し、創造していく(いわゆる三方よし)という考え方を軸にしています。
—経営者として嬉しい、幸せだと感じる瞬間はどのような時でしょうか?
患者さんが「こんなに丁寧に説明や治療をしてくれる歯医者は初めてだ」と言ってくださる時です。また、スタッフから「ここにいるからこそ人間的に成長できている」「成長する喜びを知った」という言葉を聞くときも、やりがいを感じます。
—変化の激しい現代において、これから開業を目指す歯科医師の方々へ、メッセージをお願いします。
私が開業した時代は、真面目に経営を学ぶだけで競争優位性を作りやすかったですが、今は皆さん経営を学んでおり、競争環境はかなり難しくなっています。また、開業資金も1億円ほどかかります。 本当に今の時代にギャンブル的なリスクを負ってまで単独で開業するのか、それとも自分と同じ理念を持つ大きな医療法人に参画し、裁量権を持ちながら経営リスクを抑えて働く道を選ぶのか、冷静に判断してほしいと思います。今後はAIやデジタル技術の進化もあり、経営専門集団がバックについた強力なプレイヤーが増えています。
—歯科医療が社会に果たす役割について、今後の展望をお願いします。
予防医療、特に歯科の予防が健康寿命に影響を与えるという認識は広がりつつあり、追い風は吹いていると思います。今後は、予防歯科医療が国民の生活と、国の財政にも貢献できるということを、もっと発信できるようになりたいと考えています。
Profile
院長 園延 昌志
園延 昌志 先生は、「Well-Being DENTAL CLINIC」の院長を務めています。2001年に新潟大学を卒業後、2003年に東京医科歯科大学歯学部付属病院で研修を修了されました。その後、2004年には補綴(かぶせ物、入れ歯)の専門医がいる石鍋歯科クリニック、歯周病・インプラントの専門医がいる吉野歯科クリニック、そして西新宿オフィス街の中心地にある川口歯科診療所という、専門分野の異なる3件のクリニックで非常勤として勤務し、幅広い知見と技術を磨かれました。さらに、2006年にはインプラントと審美の専門医である日高歯科クリニックでの勤務を経て、同年「そのべ歯科クリニック」を開設されました。常に医療技術の研鑽とクリニックの経営改善に努め、日本の歯科医療の質を高めることに情熱を注いでいる、業界のパイオニアの一人です。