あなたの甲状腺と、一生のパートナーに
2025.07.29
一人ひとりの不安に応えるために。甲状腺専門クリニックの挑戦
ひるま甲状腺クリニック 蒲田
院長 蛭間 重典
甲状腺疾患は、ホルモン異常によって全身に多様な症状を引き起こす一方、専門医の数は依然として限られており、長期的に安定した医療を受けられる環境は十分とは言えません。そうしたなか、地域で専門的な診療を継続的に提供するべく開業したのが、「ひるま甲状腺クリニック 蒲田」です。 院長を務める蛭間先生は、伊藤病院での経験を基盤に、「甲状腺と一生つき合う患者のパートナーでありたい」との想いを胸に、地域医療に向き合っています。今回は、開業の経緯や診療へのこだわり、クリニック運営で大切にしている視点について伺いました。
—先生が医師を志されたきっかけについて、教えていただけますか?
実は理由がふたつあるんです。ひとつめは、「長生きしたい」という純粋な気持ちでした。自分だけじゃなく、家族や周りの人にも健康でいてほしいなって。 もうひとつは、母が甲状腺の病気を患っていて、学生の頃から伊藤病院に付き添って通っていたことですね。病院って、最初は縁もなかった場所なのに、自分が医師になって、しかも同じ病院で勤務するようになるなんて、不思議ですよね。
—小さい頃から医療に興味があったんでしょうか?
そうですね。小学生の頃は獣医さんになりたいと思っていたくらい、生き物の仕組みに関心がありました。ゲームで言えば“残機”が多いほうが安心って感覚、ありますよね?(笑)それと同じで、命や健康に関わる仕事に自然と惹かれていきました。
—開業を決意された経緯を教えてください。
甲状腺専門医って、全国的にすごく少ないんです。患者さんの数は多いのに、専門的に診られる医師が足りていない状況で。伊藤病院では全国から患者さんが来てくれるのですが、病状が少し良くなると街の内科に戻られて、もうお会いできなくなる方も多くて…。 「この方、今はどうされているのかな?」と気になってしまうんですよね。 だったら自分で最後まで診られる場所をつくってしまおう、と思ったんです。
—診療科目は甲状腺に特化されているんですよね?
はい、完全に甲状腺専門です。甲状腺って、小さな臓器なんですけど、ホルモンを通じて全身に影響するので、いろんな症状が出るんですよ。ある意味、総合診療に近い感覚です。 それに、バセドウ病などの治療は今でも1950年代の薬が主流だったりして、医師の判断や見極めがすごく大切なんです。薬の種類は変わらなくても、使い方や量の調整で患者さんのQOLが劇的に良くなることもあるので、そこにすごくやりがいを感じています。
—実際に患者さんとの関わりで、印象的なエピソードはありますか?
「いろんな病院に行ってもよくならなかったけど、ここに来たらすごく体調が良くなった」って言ってもらえると、本当にうれしいです。 私は人と話すのが好きなので、診察の中で患者さんと一緒に「どうしたらよくなるか?」を考える時間が好きなんです。口コミでも「おしゃべり好きな先生」って書かれてたりします(笑)。
—開業後、人材採用や育成で苦労されたことはありましたか?
正直、大変なこともありましたが…ありがたいことに苦労って感じたことはないですね(笑)。 甲状腺って特殊なので、専門的な知識が必要なんです。そこで前職の伊藤病院にお願いして、スタッフの研修をしてもらっています。やっぱり一番厳しい環境でしっかり学べば、自信にもつながると思っています。 あとは、設計面で吹き抜けを取り入れたら音が響いてしまって、後から壁を作る工事が必要になったのは想定外でした(笑)。
— 経営する上で、どんな瞬間に喜びを感じますか?
やっぱり患者さんに「先生に出会えてよかった」「ここに来てよかった」と言っていただけたときですね。それがもう一番のやりがいです。 スタッフも「働きやすい」って言ってくれていて、患者さんも選んで来てくださる方ばかりなので、嫌々通院している方がいないんです。だから雰囲気もすごくいいんですよ。
—先生にとっての経営理念を教えてください。
三方よし、ですね。患者さん、スタッフ、取引先など、関わるすべての方に幸せになってもらいたいと思っています。 スタッフのご家族にも安心してもらえるような職場でありたいですし、「ここに来てよかった」と思ってもらえる評判を少しずつ積み重ねていきたいです。
—2~3年後のビジョンについてもお聞かせください。
関東一円、できれば全国で「甲状腺なら蛭間先生」と言っていただけるようになれたらと思っています。 夫婦そろって甲状腺の専門医で、どちらも評議員なんです。後進の育成にも力を入れていて、今は金沢で学生向けに講義も行っています。 甲状腺に携わる医師がもっと増えれば、患者さんの負担も減りますし、社会全体にとってプラスだと思っています。
—経営者として、大切にされている考え方やポリシーがあれば教えていただきたいです。
そうですね、やっぱり「仁義」はすごく大事にしています。若い頃にお世話になった先生には、今でも頭が上がらないです。自分ひとりでここまで来られたわけではないですし、感謝の気持ちは常に忘れないようにしています。 経営面でも、数字だけを追いかけるようなスタンスにはなりたくないなと考えています。 もちろん経営者としての責任もありますが、働くスタッフが「ここにいてよかった」と思える場所をつくりたいし、困ったときにすぐ相談できるような“家族みたいな職場”でありたいんです。 だから、ファミリー感というか、一体感を大切にしていますね。
—現在の患者層について、また今後どのような患者さんに来てほしいとお考えですか?
今来てくださっているのは、30代〜40代の女性が一番多いですね。甲状腺の病気は女性に多いということもありますし、ネットで情報収集される方が多い年代なので、自然とこの層が中心になっています。 できれば、「甲状腺の症状かな?」と不安に思った時点で、早めに相談していただけると嬉しいです。症状が軽いうちに来ていただいたほうが、治療の幅も広がりますから。うちでは初診時の説明にも時間をかけて、病気への理解を深めていただけるよう心がけています。
—現在の集患状況と、これからの理想についてお聞かせください。
1日で診られる人数としては、最大で60人くらいが目安です。それ以上になると、今の診療の質を保つのが難しくなってしまうので…。 ありがたいことに、今は蒲田だけでなく、北関東や関西などの遠方からも来てくださっていて、「予約が取れなくなりそうで心配」という声もいただくことがあります。そうした不安には、「ある程度までいったら新患の受け入れを制限するので大丈夫ですよ」とお伝えしています。
—最近導入されたシステムや取り組みの中で、「これは良かった」と思われたものがあれば教えてください。
資料の作成には力を入れてますね。たとえば、初診のときに渡している“採血項目の説明一覧表”はとても好評です。「これはどういう意味があるんですか?」って、よく聞かれる項目を分かりやすくまとめてお渡ししてるんですけど、イラスト付きだとやっぱり見やすいんですよね。 甲状腺って聞き慣れない言葉や数値が多いので、資料があると患者さんも安心できますし、ご自身の体の状態に納得感を持っていただけるんです。 時間をかけてでも、最初にきちんと説明するっていう姿勢は、他のクリニックさんにもすごくおすすめしたいところです。
—先生にとっての“夢”を、あらためてお聞かせいただけますか?
やっぱり、「三方よし」ですね。患者さんにもスタッフにも、関わる人すべてに幸せになってほしい。 その上で、「甲状腺といえば蛭間先生」と言ってもらえるようになれたら嬉しいです。今も学生さんに講義をしたり、後進の育成にも力を入れていますが、将来的にはメディアなどにも出て、もっと甲状腺疾患について知ってもらいたいですね。
— 最後に、これから開業を目指す先生方へメッセージをお願いします。
とにかく「思い立ったら即行動」。これ、大事です。特にお金周りのことは、やってみないと分からないことが多いので(笑) ただ、何も考えずに突っ込むのではなくて、自分の武器をきちんと準備して、差別化できる強みをしっかり言語化しておくことが重要だと思います。 自分自身も講師を続けたり、学会活動をしたりして、ちゃんと準備はしてきました。だから“即行動”と“入念な準備”の両方があってこそ、ですね。
Profile
院長 蛭間 重典
今回のインタビューでは、ひるま甲状腺クリニック 蒲田の蛭間院長に、開業の背景や専門分野へのこだわり、そしてクリニックの今とこれからについてお話を伺いました。 お話のなかからは、患者さん一人ひとりに真摯に向き合おうとする姿勢、そしてスタッフと共に成長しながらクリニックを育てていく柔らかなリーダー像が見えてきます。 専門性の高い分野でありながらも、地域の方々にとって気軽に相談できる場所を目指す姿勢には、確かな信念とあたたかさが感じられました。 「関わるすべての人に幸せを届けたい」と語るその言葉には、医療人としてだけでなく、経営者としての誠実な想いが静かに宿っています。