Interviewインタビュー

地域に医療を届ける訪問診療と、児玉院長が貫く“自己犠牲”の信念

新座こだまクリニック

院長 児玉 奥博

「もっと患者さんと深く関わりたい」「困っている人を見過ごしたくない」──そんな想いから、地域に根ざした訪問診療を展開しているのが、新座市にある「新座こだまクリニック」の院長・児玉奥博先生です。医師を志したのは、まだ小学生の頃。好奇心旺盛だった少年が、やがて“医療”という果てしない知の世界に魅せられ、自らの人生をかけて歩み始めました。 勤務医時代に感じたもどかしさや、医師としての在り方に対する葛藤を乗り越え、2022年に自身の理想を形にしたクリニックを開院。診療は24時間365日体制、対応するのは高齢者だけでなく、通院が難しいすべての人たち。患者さんの暮らしに寄り添い、ご家族の不安にも丁寧に耳を傾けながら、“その人らしい毎日”を支えています。 「最大多数の最大幸福」をモットーに掲げ、自らの信念に真っ直ぐに向き合い続ける児玉先生に、開業の経緯から日々の診療、そしてこれからの展望までじっくりとお話を伺いました。

「最大多数の最大幸福」をめざして

患者さんを自分の親と思って接するという道

先生が医師を志されたきっかけについて、まずお聞きしてもよろしいでしょうか?

僕は幼少期を親の仕事の関係で祖父母に育てられました。敬老の精神はそこに根付いていると思います。また昔から、知らないことがあるとじっとしていられない性格で、すぐに調べたり納得するまで考えたりしていました。医学って、とにかく謎が多くて奥が深い世界ですよね。子どもの頃からその分野に強く惹かれていて、「こんなにわからないことがあるなんて面白い!」と純粋に思っていました。小学生の時にはもう「将来は医者になる」と決めていましたし、両親が歯科医師で、親戚にも医療関係者が多かったので、医療がとても身近だったんです。

では、開業に至るまでにも自然な流れがあったのですね。実際にクリニックを立ち上げることになった背景も教えてください。

開業を決意したのは勤務医として働く中での「葛藤」があったからです。もっと患者さんに時間をかけて向き合いたい。でも現実には、診療時間が限られていて、その理想が叶わない。そんな日々を過ごしていくうちに、どんどん「このままじゃダメだ」と思うようになりました。 訪問診療を中心に据えたのは、患者さんの生活そのものに触れられるからです。病院の外来では見えない「日常」にこそ、医療が必要なヒントがたくさんあると感じていました。 たとえばなんですが、仮に中国語しか話せない患者さんがいたとして、その人が言葉の壁のせいで診てもらえないような状況があったら──僕はそれをなんとかしたいと思うんです。僕は中国語を話せるので対応できますが、仮に言葉が通じなかったとしても、医師であるなら診るべき方法を探すべきじゃないかと。言語が通じないから診ない、というのは医師の姿勢として違うと思うんです。だからこそ、たとえ自分が苦労することになっても、「自己犠牲」を厭わずに診療に臨む。それが医師としてのあるべき姿だと信じています。

訪問診療に込めた想いと診療スタンス

訪問診療を専門にされているとのことですが、実際の現場ではどのような点を大切にされていますか?

患者さんのご自宅に伺うことで、その方の生活背景まで見えるのが訪問診療の最大の魅力です。薬が本当に飲めているのか、家の中でどんな生活をしているのか、病状だけでなくその人全体を診ることができる。そうやって一歩踏み込んでいくことが、医師として本当に大事なことだと感じています。また訪問看護やケアマネージャー・地域包括支援センター・保健所・市役所などの方々との連携も非常に重要です。

診療時に意識されていることがあれば、教えていただけますか?

丁寧に、時間をかけて診ること。これは開業前からずっと変わらない信念です。それから、僕はいつも「この患者さんが自分の親だったら、どう接するだろう」と考えています。そう思うと自然に診療の質が高まるし、どんな選択が最善かも見えてくるんです。これはスタッフにも毎日言っています。何かあったときには常に「自分の親だったらどうするか?」と考えてみよう、と。

仲間を得る難しさと向き合い続けた経験

スタッフ採用について、これまでのご苦労があればお聞かせください。

いやぁ、これは永遠の課題かもしれませんね(笑)。正直、人はずっと足りていないです。それでも、同じ方向を向いて一緒にやってくれる仲間を見つけることが、一番難しくて、一番大事だと感じています。

人材育成において意識されていることはありますか?

理念を一貫して伝え続けることですね。スタッフには、背中で見せるというより、毎日きちんと言葉で伝えるようにしています。「患者さんには自分の親のように接して」と。それをどれだけ真剣に伝え続けられるかが大切だと思っています。また、これは最も大事にしていることの一つですが、スタッフもここで働くことで人間的に成長しより幸せな人生をになれるよう、指導することを心掛けています。

医師としてのやりがいと現実の壁

開業後に「やっていてよかった」と感じる瞬間について教えてください。

やっぱり患者さんやご家族から感謝されるときですね。その一言で、すべてが報われる気持ちになります。ああ、自分のやっている医療は正しいのだと、強く実感できる瞬間です。

逆に、大変だと感じることは何でしょうか?

当院で働く人も当法人の理念である患者さんを自分の親と接する事ができる人、自分の親御さんが受けたいと思える医療を行える方と働きたいと思っています。中々人材確保は難しいですが、同じ信念を持って働ける仲間は少しずつ、しかし確実に増えてきています。

経営理念と未来への拡張ビジョン

改めて、御院の経営理念をお聞かせください。

「自己犠牲」ですね。もちろん健康を害してまで無理をするわけではないですが、普通のことを普通にやっているだけじゃ足りないと思っているんです。初診の患者さんでも具合が悪ければ夜11時でも僕は行きます。誰もやらないことをやる。医師として育ててくれた社会に顔向けできる働きをしたいと思っています。

今後のクリニックの展望についてはいかがでしょうか?

分院を全国に展開していきたいと思っています。ふじみ野に1つ目の分院を立ち上げましたし、今は千葉や群馬、新潟にも準備を進めています。

年齢・疾患を問わず診療対象に対応

診療数の上限についてはどう考えていますか?

限界はないと思っています。経営の視点で、需要と供給のバランスを数学的に見ながら、必要な体制を準備するだけです。

医療を通じて、真の“幸福”を届けたい

先生にとっての“夢”を教えてください。

患者さんや働いてくれているスタッフ含む関わるすべての人が、自分の人生を「幸せだ」と感じながら生きていけるようになることです。楽をして生きることが幸せとは限らない。本当の意味で「幸せだな」と思える時間が増えていくことが大事だと僕は思っています。

これから開業を目指す方や、同じような想いを持つ医師に向けて、メッセージをお願いします。

お金のために開業してはいけません。ネガティブな理由で開業するのも良くないと思います。自分の限界に近づいたとき、心が折れてしまうからです。開業には自己犠牲の精神が必要だと思います。また、やりたい医療がある、患者さんに対してこうありたいという思いがある、そういう前向きな理由がないと続かない。覚悟を持って、自分の人生を患者さんに捧げられるか──それが開業医としての出発点だと思います。 たとえば、僕が5分自分を犠牲にすることで、誰かが1ヶ月幸せになれるなら、それは“幸せを増やす行為”ですよね。そんなふうに、少しずつでも社会全体に幸福が広がっていく。僕はそう信じて患者さんを自分の親だと思い、日々接しています。

Profile

院長 児玉 奥博

取材を終えて強く感じたのは、児玉院長の言葉ひとつひとつに、医療への覚悟と揺るぎない信念が込められていることでした。「自己犠牲」を口にしながらも、どこか朗らかに笑い、患者さんの幸せのためならどこまでも尽くすという姿勢には、思わず背筋が伸びる思いがしました。 目の前の一人に深く向き合い、その先にいる家族や地域の幸せまでを見据える――そんな医療を、真正面から実践しようとしている児玉先生の姿は、まさに“頼れる地域のかかりつけ医”そのもの。訪問診療というスタイルにとどまらず、医療の本質とは何かを改めて考えさせられるインタビューとなりました。

会社情報

医院名

新座こだまクリニック

設立

2022年