医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
「継承は感謝のリレー」地域に寄り添い続ける医療法人 小村歯科医院 小村 圭介I院長の挑戦
医療法人 小村歯科医院
院長 小村 圭介
青森県三戸郡五戸町にある「医療法人 小村歯科医院」。地域のかかりつけ医として長年愛されてきた当院で、2020年に2代目院長として手綱を握ったのが小村 圭介先生です。先代であるお父様が築き上げた信頼と歴史を受け継ぎながら、新たな視点で地域医療の未来を見据えています。「継承は感謝のリレー」と語る小村 圭介先生に、歯科医師を目指した原点や事業継承における苦労、そして地域とともに歩むこれからの展望について詳しくお話を伺いました。
—小村先生が歯科医師を目指されたきっかけをお聞かせください。
父が地元である五戸町で開業医として歯科医院を営んでおり、その働く姿を幼い頃から身近に見ていたことが一番のきっかけです。私は3人兄弟の長男ということもあり、「将来は自分が家業を継いで、この街の歯科医療を守っていくんだ」という思いが自然と芽生えていきました。
—学生時代に進路で悩まれたことはありましたか?
高校3年生の受験期には、医学部進学も選択肢として考えていた時期がありました。しかし、長男である自分がしっかりと父のあとを継ぎ、地元の医療を支えようと決意し、歯学部一本に絞りました。
—大学卒業後の研修や勤務を経て、ご実家に戻られる際迷いはありませんでしたか?
岩手医科大学を卒業後、青森県立中央病院での研修や他院での勤務を経て当院に戻ってきましたが、他の場所で開業するという選択肢は最初からありませんでしたね。大好きな地元の医療に貢献したいという思いはずっとブレませんでした。
—医療法人 小村歯科医院の最大の強みはどこにあるとお考えですか?
先代の時代から長年通い続けてくださっている患者様を、そのまましっかりと引き継げている点です。当院のカルテ番号は現在1万1,000番を超え1万2,000番に迫っているのですが、そのうち9,500番近くまでは父の代からのカルテなんです。35年以上の歴史の中で、世代を超えて地域の方々の健康を見守り続けられる体制が整っています。
—ホームページやSNSなど、WEBでの集客や広告戦略についてはどう取り組まれていますか?
実は広告費は昔も今も0円なんです。ホームページの更新もほとんどしていませんし、SNSも休診案内を出す程度で、WEB予約なども導入していません。当院にお越しになる患者様のほとんどは、地域の方々の口コミやご紹介で来てくださっています。
—WEB集客に頼らない診療スタイルには、どのような思いがあるのでしょうか?
私たちは患者様を「お客様」として扱うビジネスではなく、誠実な医療を提供する「医療機関」であるという自負があります。目の前の患者様に対して丁寧で確かな技術を提供し続けていれば、信頼の口コミとなって広がっていくと考えています。
—2代目として医院を継承された際、苦労されたエピソードはありますか?
「建物やハード面を引き継ぐのが承継」であり、「ソフト面や思いを引き継ぐのが継承」だと私は考えています。院長に就任した当初は、父が築いてきた方針や院内の風土と、私が新しく取り入れたい方針との間で食い違いが生じ、スタッフを困惑させてしまったことが一番の苦労でした。
—そのような父上の代からのスタッフとのすり合わせは、どのように乗り越えられたのですか?
継承すると決めた以上、まずはこれまでの歴史や院内の風土をしっかりと尊重し、受け止める覚悟を持ちました。時間をかけて対話を重ね、方針の擦り合わせを行ったことで、現在ではスタッフ全員が同じベクトルを向いて診療に臨めるようになっています。
—ご自身の経験を踏まえ、事業継承を目指す若い歯科医師へアドバイスをお願いします。
2024年に出版した自著『家業を継ぐ前に、知っておきたい「継承学」』でも伝えているのですが、私は「継承は感謝のリレー」という言葉を大切にしています。事業の中で壁にぶつかった時、決して人のせいにせず「自責」として自分にできる改善策を考えること。そして成功した時は周囲への「感謝」を忘れないこと。この気持ちを持っていれば、継承はきっとうまくいきます。
—院長に就任されて数年が経ちますが、今後の医院のビジョンをお聞かせください。
まずは地域の「かかりつけ医」として、これまで通り質の高い診療を誠実に続けていくことです。急激な拡大戦略をとるのではなく、勤務医の先生をお迎えできる環境を整えつつ、地進一歩で堅実な医院運営を続けていきたいと考えています。
—周辺地域の医療環境の変化に対しては、どのようにお考えですか?
現在、近隣地域では歯科医師の高齢化や後継者不足による閉院が増加しています。これからは五戸町内だけでなく、周辺エリアも含めた広域な地域医療を守っていく必要があります。行政や地域活動とも連携しながら、必要な医療を届けられる体制を築いていきたいですね。
—最後に、小村先生個人としての「夢」を教えていただけますか?
自分と同じように事業継承や後継者問題に悩む若い歯科医師たちをサポートしていくことです。セミナーや執筆活動を通じて継承のノウハウや思いを伝えていくことで、地域から歯科医院が消えてしまうのを防ぎ、患者様も医療従事者も安心できる未来を紡いでいきたいです。
Profile
院長 小村 圭介
1987年生まれ、青森県三戸郡五戸町出身。カトリック幼稚園、五戸小学校、五戸中学校、県立八戸高校を経て、2012年に岩手医科大学歯学部を卒業。同年、青森県立中央病院歯科口腔外科にて臨床研修医を務める。2014年より岩手県なかさと歯科医院にて研鑽を積み、2017年より医療法人 小村歯科医院に勤務。同年より八戸保健医療専門学校スポーツ柔整学科病理学講師、2019年より同校歯科衛生士学科補綴Ⅱ講師を兼任。2020年に医療法人 小村歯科医院を継承し、2代目院長に就任。地域医療への貢献と後進の育成に力を注いでいる。2024年には「家業を継ぐ前に、知っておきたい『継承学』」を出版。日本口腔インプラント学会専門医、日本顎咬合学会東北支部理事。