Interviewインタビュー

患者様に寄り添う診療と、現状維持に込めた開業医としての信念

銀座泰明クリニック

院長 茅野 分

東京都中央区銀座5丁目、並木通りに面した「銀座泰明クリニック」は、精神科・心療内科を専門に掲げ、心の不調を抱える人々が安心して相談できる場を提供しています。院長の茅野分先生は、患者様がつらい時にすぐに頼れる場所であることを何より大切にし、夜間や土日にも診療を行う体制を整えています。ご家族の病気や医師が多い環境で育った経験、そして東京で都市生活者の心の問題を目の当たりにしたことが開業の大きなきっかけとなりました。今回は、医師を志した原点から診療に込める想い、経営の歩みやこれからの夢まで、茅野先生にじっくりお話を伺いました。

患者様の声に耳を傾ける医療を――銀座泰明クリニック院長・茅野分先生インタビュー

医師への道と銀座での開業に込めた思い

まず、先生が医師を志されたきっかけを教えていただけますか。

親戚に医師が多かったことがきっかけです。父やおじたちが医師として働く姿を幼い頃から身近に見て育ち、その背中を追うように医学部へと進みました。特別に劇的な出来事があったわけではありませんが、環境の影響を受けて医学を学ぶことがごく自然な道に思えたのです。

ご家族やご親戚の存在が大きく作用したのですね。では、東京で開業するまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

大学時代は群馬で過ごし、研修医として長野で臨床経験を積みました。その後東京に戻ってきたときに、都市社会が抱える特徴的な問題に直面しました。人間関係の希薄さや競争の激しさ、生活のスピードなどが人々の心を追い込んでいるのではないかと強く感じたのです。そこで「東京の一番真ん中に、気軽に立ち寄れて、安心して心の相談ができる場を作りたい」という思いが生まれました。その思いが決意に変わり、開業に至りました。

都市の課題を肌で感じたことが開業の大きな原動力になったのですね。ちなみに、ご専門についても教えていただけますか。

私の専門は精神科と心療内科です。心の不調や体に現れるストレス関連の症状など、幅広い患者様を診ています。

診療の姿勢とスタッフとの協働

診療にあたって特に意識されていることはありますか。

最も大切にしているのは、患者様のお話を丁寧に伺うことです。全体の8割から9割は患者様に語っていただきます。医師が一方的に説明するのではなく、患者様が自由に話す中で本当の思いや背景が表れてきます。また、言葉に出ない表情やしぐさ、声の調子といったノンバーバルなサインを受け止めることも大切です。そうした部分にこそ病状や生活の苦しさが現れることがあるからです。

採用に関してはいかがでしょうか。他のクリニックでは人材の確保に苦労される先生も多いようですが・・・

ありがたいことに、当院は非常に順調です。人材が充足しており、困ったことはほとんどありません。一般的に医療機関ではスタッフ募集に時間がかかったり、採用しても長続きしなかったりするケースもあると聞きますが、当院は順風満帆に進んできました。これは本当に恵まれていることだと感じています。

教育の面ではどのように取り組んでおられますか。

特別なマニュアルを設けるというより、先輩が働く姿を見て自然に学んでくれる雰囲気があります。スタッフ一人ひとりがもともと高い能力を持っているので、現場での経験を通じて力を発揮してくれるのです。お互いに学び合いながら成長してくれることが、クリニック全体の力につながっていると感じています。

クリニック経営で感じるやりがいと難しさ

開業後、特に苦労されたのはどのような点でしょうか。

全員の症状が必ず改善するわけではないという現実です。治療を続けても良くならなかったり、満足されずに通院をやめてしまう患者様がいることは、とてもつらい経験です。医師として力を尽くしても届かないことがある、その現実に直面するのは苦しいことです。

逆に、喜びややりがいを感じるのはどのような時でしょうか。

やはり患者様が良くなられた時です。症状が改善し、笑顔を取り戻された姿を見ると、医師を続けてきて本当に良かったと感じます。その瞬間があるからこそ、日々の診療を続けていけるのだと思います。

経営者として大変だと感じることもありますか。

前にお話しした通り、患者様が回復されずに離れてしまうことがまず大きな課題です。それに加えて、再来の予約を入れていた患者様が来院されなかった時や、ネガティブな口コミを目にした時は心が痛みます。小さなことに見えるかもしれませんが、診療を続ける中では一つひとつが重くのしかかってきます。

理念に基づく診療と今後のビジョン

クリニックの経営理念を改めて教えていただけますか。

夜間や土日も診療を行い、患者様が具合が悪い時にいつでも来られる体制を整えています。また、依存症やパーソナリティ障害の患者様など、他の医療機関で敬遠されがちな方々も当院では受け入れています。必要としている方を断らないこと、それが当院の基本方針です。

今後2〜3年のビジョンについてはいかがでしょうか。

現状を維持することを最も大切にしています。分院を出すなど規模を広げることは考えていません。新しいことを追いかけるのではなく、今の診療体制や医療水準をしっかりと保つこと。それが目の前の患者さ様にとって一番大切だと思っています。

経営者として大切にされている考え方についても教えてください。

「ミクロの目とマクロの目」を持つことです。ミクロの目は、目の前の患者様を見て学ぶ姿勢です。私が執筆しているコラムの題材も、患者様の声や訴えから生まれています。マクロの目は、社会全体や世界全体で精神医療がどのように変化していくのかを意識する視点です。この二つのバランスを常に保つことが、経営者として欠かせないことだと考えています。

新しい取り組みと残された課題

最近導入されて良かったシステムはありますか。

インターネットやLINEを通じたオンライン予約システムです。患者様にとって使いやすく、利便性が高まったと感じています。診療側にとっても効率が上がり、メリットが多いシステムです。

現在の課題はどのような点にありますか。

やはり患者様が回復されずに離れてしまうことです。その部分が一番の課題だと考えています。

医師としての夢と後進へのメッセージ

先生ご自身の夢について伺えますか。

80歳くらいまで大きな病気もせず、1日も休まず診療を続けることが夢です。健康を維持し、長く現場に立ち続けたいと思っています。

最後に、これから開業を目指す先生方にメッセージをお願いします。

開業医としては、派手な拡大路線や新しい設備に飛びつくことは避けた方がいいと考えています。地道な診療を続け、患者様に向き合い続けることが大切です。そして「ミクロの目とマクロの目」の両方を意識して診療を行うこと。これが開業医に求められる最も重要な姿勢だと思います。

Profile

院長 茅野 分

茅野分(ちの ぶん)先生は、群馬大学医学部を卒業後、佐久総合病院で研修を積みました。その後、東京へ戻り、慶応義塾大学医学部大学院にて水野雅文先生のもと社会精神医学を学び、現代都市社会と精神疾患の深い関連に気づきました。こうした経験を通じて、誰もが気軽に相談できる場所を提供したいという思いが強まり、東京都中央区銀座5-1-15-5階に「銀座泰明クリニック」を開設しました。専門は精神科・心療内科で、夜間や土日にも診療を行い、依存症やパーソナリティ障害など幅広い患者を受け入れています。患者一人ひとりの声に耳を傾け、非言語的なサインを丁寧に汲み取る診療姿勢を大切にし、地域で信頼される心の医療を続けています。

会社情報

医院名

銀座泰明クリニック

設立

2011年