地域医療への熱い思いと子どもたちへの優しさが詰まったクリニック–くくるの森みみはなのどクリニック 吉田 真也 院長 インタビュー
2025.11.25
高度医療の最前線から、人生に深く関わる地域医療へ。アガペクリニック・伊藤志門先生が語る「人としての医療」の原点
アガペクリニック
院長 伊藤 志門
愛知県日進市に位置する「アガペクリニック」。父である先代の跡を継ぎ、現在は有床診療所として緩和ケアや在宅医療を含む、地域に根差した医療を提供しています。院長の伊藤志門先生は、もともと呼吸器外科のスペシャリストとしてがんセンターなどで活躍されていました。なぜ、手術室という最前線から、患者様の人生そのものに寄り添う現在のスタイルへと転身されたのか。そこには、医療の高度化に伴うジレンマと、「技術」よりも「心」を大切にしたいという、医師としての揺るぎない信念がありました。今回は伊藤先生に、医療への想いやクリニック経営における葛藤、そして未来への展望について語っていただきました。
—まずは、伊藤先生が医師を志したきっかけからお教えいただけますでしょうか?
きっかけと言われると、やはり父が医師だったという環境が大きいですね。ただ、実を言うと元々は文系が好きで、弁護士になりたかったんですよ(笑)。 世界を舞台に働きたいという思いがあったのですが、いろいろ考える中で、人間そのものを扱う仕事、つまり医師の方が汎用性が高く、世界でも通用するのではないかと考え、医学部を選びました。根っこは文系人間なんです。
—意外な一面ですね。その後、外科医としてご活躍されますが、そこから現在のアガペクリニックを継承されるに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?
元々は消化器外科から始まり、その後は呼吸器外科で肺の手術を専門にしていました。当時は鏡視下手術やロボット手術など、技術革新が進んでいた時期です。しかし、技術に重きが置かれるようになるにつれて、手術自体が「流れ作業」のように感じられるようになってしまったんです。 昔は手術をしたら、その患者さんと一生のお付き合いになるような感覚がありましたが、医療の効率化が進み、手術をして1週間で退院、ハイ次の方……というように、まるで右から左へ流すような感覚に陥りました。「人」と向き合っているというより、「肺」という臓器と向き合っているような寂しさを感じたのです。
—高度医療ならではの葛藤があったのですね。
はい。私はやはり、病気という人生のターニングポイントにおいて、その人に深く寄り添うのが医師の本分だと思っています。 そんな折、開業していた父が年齢的にも体力的にも厳しくなってきて、「継ぐのか継がないのか」という話になりました。当院は有床診療所で、緩和ケアや在宅医療にも力を入れています。終末期や生活に困難を抱えるご高齢の方など、患者様の人生そのものにトータルで関わることができる環境です。「人生に寄り添う医療」を実践するならこちらの方がいいのではないかと思い、継承を決意しました。
—継承された当初、ご苦労などはありましたか?
院長になったばかりの頃は、「すべて自分でやらなければ」と気負いすぎていましたね。スタッフの引き継ぎがうまくいかなかったり、給与面での調整が必要だったりと、経営者としての洗礼を受けました。 一時期は体調を崩しかけるほど悩みましたが、妻が看護師として手伝ってくれるようになり、自分一人で抱え込まずに任せることで、なんとか乗り越えてきました。今はスタッフにも恵まれていると感じています。
—実際に院長になられてから、クリニック経営において大切にされている理念についてお聞かせください。
当院はキリスト教精神に基づいた病院ですので、一番のミッションは「心のケア」です。そして、それを実現するために私が最も大切にしているのは「スタッフ」です。 スタッフが大切にされ、愛されていると感じていなければ、患者様に愛を伝えることなんてできませんから。スタッフが幸せで働ける環境を作ることが、結果として患者様への良い医療につながると信じています。
—経営者として、どのような瞬間に喜びを感じますか?
うちのスタッフが、自分の家族や友人を当院に連れてきてくれた時は本当に嬉しいですね。「自分の働く職場なら安心だ」と思ってくれている証拠ですから。 自分たちが提供している医療やサービスに自信を持ってくれて、それが自然な形で大切な人たちに広がっていく。これが一番理想的な形であり、経営者冥利に尽きる瞬間です。
—現在の医療業界に対して、先生が感じている課題感などはありますか?
最近は医療も効率化や分業化が進み、「専門外のことは診ない」というスタイルが増えているように感じます。もちろん専門性は大切ですが、地域医療においては「何でも相談に乗るよ」「とりあえず診るよ」という、まるごと受け止める姿勢の医師が減ってきているのは寂しいですね。 経営効率だけを考えれば専門特化して数を回す方が良いのかもしれませんが、私はやはり、患者様の困りごとに幅広く対応できる「町医者」でありたいと思っています。
—昨今は人材採用に苦労されるクリニックも多いですが、現状はいかがでしょうか?
正直、順調とは言えません。特に有床診療所なので夜勤ができる看護師の確保は常に課題です。この10年ほどで、夜間や早朝など、人が働きたがらない時間帯に働いてくれる人が本当に少なくなりました。 基本的にはスタッフの紹介や縁故採用を重視していますが、それだけでは足りないので人材紹介会社を使うこともあります。ただ、紹介料が高騰している現状には頭を悩ませていますね。
—人材教育については、どのような点を意識されていますか?
忙しくて十分な教育ができているとは言えませんが、意識しているのは「自律性」です。言われたことだけをやるのではなく、自分で考えて行動してほしい。 知識を詰め込むことよりも、「その人がどう考えたか」というプロセスを尊重したいですね。イエスマンではなく、たとえ意見が違っても、院長である私に意見してくれるような人を育てたいと思っています。
—若いスタッフの方々への想いをお聞かせください。
若い子たちが当院で経験を積んで、「ここで働けてよかった」と言って巣立っていくのは、寂しくもありますが嬉しいことでもあります。 当院は幅広く何でも診るスタイルなので、看護師さんにとっても多様な経験が積める環境だと思います。医療人として成長し、次のステップへ進んでいく姿を見るのは頼もしいですね。
—経営面において、集客やシステムの導入など、新しい取り組みについてはどのようにお考えですか?
最近導入して良かったのは、AI問診の「Ubie(ユビー)」ですね。初診の方の情報を事前に把握できるので、カルテ作成の効率化にもなりますし、患者様にとってもスムーズです。 また、院内でのデジタルサイネージも活用しています。待ち時間を利用して、医療知識や当院の取り組みを知ってもらうのに役立っています。ポスターを貼るよりも効果的だと感じています。
—Webでの情報発信や集客についてはいかがでしょうか?
私自身は「口コミ」や「地域のつながり」といったアナログな信頼関係が一番強いと思っていますし、理想はそこにあるのですが、現実はGoogleマップやホームページを見て来院される方がほとんどです。 特にGoogleマップの情報は、患者様にとって「距離的な近さ」を知る上で非常に重要です。時代の流れに合わせて、Webでの見え方や情報の出し方は意識せざるを得ないですね。
—最後に、今後の展望とメッセージをお願いします。
今後の展望としては、規模を拡大するよりも、提供する医療サービスの「質」を上げていきたいと考えています。「あそこに行けば安心だよ」と、地域の方々に信頼されるクオリティを維持・向上させていきたいですね。 医療の形は変わっても、根底にあるのは「人と人」です。自分の専門性を活かしつつも、地域社会の一員として、困っている人に手を差し伸べられる存在であり続けたい。それが私の目指す地域医療の形です。
Profile
院長 伊藤 志門
アガペクリニック院長の伊藤 志門 先生は、1996年に岐阜大学医学部を卒業後、公立陶生病院での研修を経て外科医としてのキャリアをスタートされました。 愛知県がんセンターや名古屋大学医学部附属病院にて胸部外科・呼吸器外科の研鑽を積み、2008年には名古屋大学大学院を卒業されています。その後、愛知県がんセンター中央病院医長、名古屋第二赤十字病院呼吸器外科医員および緩和ケアチーム所属を経て、2015年4月にアガペクリニック副院長に就任されました。 同年10月より同クリニック院長を務めていらっしゃいます。高度な専門知識と温かな人間味を兼ね備えた診療で、地域住民からの信頼も厚いです。