医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
あんどう内科クリニック 安藤 大樹院長が目指す、地域医療の理想形
あんどう内科クリニック
院長 安藤 大樹
岐阜県岐阜市、東駒爪町にあるあんどう内科クリニックは、地域の方々の健康を長きにわたり支えてきたクリニックです。2017年に院長に就任された安藤 大樹先生は、代々続くクリニックを継承しつつ、ご自身の専門である「総合診療(プライマリ・ケア)」の考え方を深く根付かせています。 目の前の病気だけでなく、患者様を「一人の人間」として、その背景にある生活や思いまで含めて全人的に診療する。その信念は、地域医療の質を高め、患者様の安心に繋がっています。 今回は、安藤院長先生に、医師を志したきっかけから、継承されたクリニックでの診療にかける想い、そして今後の展望について詳しくお話を伺いました。地域の方々から厚い信頼を寄せられる安藤院長先生の、真摯で情熱的な医療への姿勢に迫ります。
—まず、先生が医師を志すことになったきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか?
私自身、幼い頃から父が開業医として働く姿を見て育ちましたので、医師になることは「当たり前」のような感覚があり、実は特に深く考えることはありませんでした。しかし、若い頃には医療以外の道にも興味を抱き、一時的に医師の道への関心を失っていた時期があったんです。 そんな時、19歳の頃にテレビで見た阪神・淡路大震災の映像が、私の進路を決定づける大きなきっかけとなりました。被災地で懸命に働くお医者様の姿を見て、父がやっていた仕事は、本当に困っている人を助けることができる「尊い仕事」なんだと初めて強く実感したのです。その瞬間から、医師になることを真剣に目指し始めました。
—継承されたあんどう内科クリニックでは、主にどのような分野を専門とされているのでしょうか?
私の専門は総合診療です。私が医師になった20年ほど前は、まだ一般的にはあまり知られていない分野でした。大学病院では各科の「縦割り」の医療が行われていますが、患者様の抱える病気や不調は、決して縦割りで分けられるものではありません。 私は、体や心、臓器を切り離さずに、全人的に人を見られる医療がしたいと考え、総合診療を学びました。これは、地域医療を守る上で非常に重要だと考えています。
—開業されてから、特に診療時に意識されている点や大切にされている考え方について教えてください。
一番大切にしていることは、「患者様の物語を知る」ということです。総合診療は、エビデンス(科学的根拠)ももちろん重要ですが、それだけでは患者様の内面に踏み込むことはできません。 病気に関する物語はもちろんですが、その方の家族背景や性格、過去の仕事や喜びといった、患者様一人ひとりの人生の物語を理解することが、適切な診療に非常に役立ちます。そのため、患者様との雑談を非常に大切にしており、初診の方には特に時間をかけて、その方の「物語」を伺うようにしています。診察時間が長くなってしまうこともありますが、患者様の全体像を把握するためには欠かせない時間です。
—開業されてから、特に苦労されたエピソードがあれば教えていただけますでしょうか?
クリニックを継承してから、特に最初の1年間は苦労しました。当院は父の代から長く通ってくださっている地元の方が多くいらっしゃいます。そういった患者様方は、昔ながらの先生の診療を求めている場合もあるため、父の代からの患者様の満足度を下げないようにしつつ、私の専門である総合診療の考え方を浸透させていくことに難しさを感じていました。 さらに、私の専門が総合診療ということもあり、一人ひとりに時間をかけて診察するため、どうしても待ち時間が長くなってしまうという問題がありました。来院してくださった方に、不満なく、心地よく診療を受けていただくにはどうしたら良いか、ということを常に考えて試行錯誤していました。
—逆に、経営をされていて、どのような時にやりがいや喜びを感じますか?
やはり、古くから来てくださっている患者様方からの温かいお言葉をいただいた時です。私を幼い頃から知っている方や、父の代からクリニックを信頼して通ってくださっている方が大勢いらっしゃいます。 「ここに来ると元気が出る」「先生に診てもらえると安心する」という言葉をかけていただけると、地域に根ざした医療を提供できていることへの大きなやりがいを感じます。患者様の人生の終盤まで、その生活に寄り添い、力を尽くせることは医師として非常に光栄なことです。
— あんどう内科クリニックの経営理念についてお聞かせいただけますでしょうか?
私自身のライフワークとして、「総合診療(プライマリ・ケア)を地域に根付かせたい」という強い思いがあります。 プライマリ・ケアや総合診療を行う医師は、患者様を全人的に、身体的な面だけでなく、精神的な面も含めて総合的に見ることができる方が多いです。そうしたマインドを持った医師が地域に増えることで、患者様は医療の「受け皿」を得ることができ、医療難民のような状況を減らすことができます。結果として、地域の健康の安全に繋がると信じています。 あんどう内科クリニックが、そのプライマリ・ケアのモデルケースの一つとして機能できるよう、日々診療に当たっています。
— 2~3年後に、どのようなクリニックになっていたいか、ビジョンがあれば教えてください。
現在、多くの患者様を診察させていただく中で、特にメンタルを抱える方への診療に時間を割いていますが、そのために訪問診療が十分にできていないという課題があります。 地域に根ざした医療を実践するためには、通院が困難な方への訪問診療は避けて通れません。何としてでも数年以内には訪問診療を本格的にスタートさせたいと考えています。
—最後に、これから開業を志す先生方、あるいは同じ立場の先生方にメッセージをお願いします。
今の時代は、20年前、30年前に比べて開業を取り巻く環境は決して楽ではありません。保険点数の削減など、経営面だけで考えるとメリットが減っているのは事実です。 しかし、ご自身の理想とする医療を目指すことは、必ずできます。 開業した先生方にお伝えしたいのは、「診察時のマインドを少し変えて欲しい」ということです。大きな病院で働いていた時と同じように、パソコンの画面ばかり見て、患者様の顔を見ていない状態になっていませんか。 診療時には、患者様と一回、目を合わせて、膝を突き合わせることを意識してみてください。これは明日からでもできることです。パフォーマンスでも構いません。この意識を持つだけで、患者さんからの信頼は格段に変わります。 患者さん目線で、まずは「目の前の人を大切に」という姿勢を忘れないでほしいと思います。そうすることで、地域医療の質は必ずステップアップしていくはずです。
Profile
院長 安藤 大樹
あんどう内科クリニックの安藤大樹院長は、3代にわたる医師の家系に育ち、実質的には4代目として地域医療を支えています。2004年に藤田保健衛生大学医学部医学科(現:藤田医科大学)を卒業後、同大学の内科にて研鑽を積まれました。内科助手、助教(医局長)を経て、2011年からは藤田保健衛生大学救急総合内科の助教として活躍。2011年-2015年にかけて同院最優秀指導医賞受賞。2015年には岐阜市民病院の医員を務め、同年より藤田保健衛生大学救急総合内科客員講師にも就任されています。 特に、専門とする総合診療の分野で深く学びを重ね、患者様を全人的に診る医療を追求してきました。2017年からはあんどう内科クリニックの院長に就任され、地域に根ざしたプライマリ・ケアを提供しています。 現在、岐阜市民病院 研修管理委員会 外部委員、そして医療法人社団藤和会の理事長も務め、多方面から医療に貢献されています。