あなたの甲状腺と、一生のパートナーに
2025.07.29
海外経験を経て、たどり着いた“かかりつけ”のかたち
グローバルヘルスケアクリニック
院長 水野 泰孝
大学病院や国立の医療機関、さらには海外の日本大使館など、国内外のさまざまな現場で経験を積んできた水野泰孝院長。感染症や熱帯医学、渡航医療など、専門性の高い分野を軸に多くの患者さんと向き合ってきました。そんな先生が「もっと患者さんに近い場所で専門医療を届けたい」との思いから立ち上げたのが、千代田区麹町にあるグローバルヘルスケアクリニックです。長年のキャリアで得た知見と、現場を大切にする姿勢をそのままに、“グローバル”かつ“地域に根ざした”新しい医療のかたちを模索する水野院長に、お話を伺いました。
—まずは、先生が医師を志したきっかけを教えていただけますか?
父が小児科医だったこともあり幼少時からなんとなく同じ仕事をするのかと思っていましたが、中学3年生のときに初めて研修で海外渡航した時に現地の学生と話す機会があり、そのときから“海外で仕事をしたい”という思いが芽生えました。結果的には周囲の勧めや適性検査などを経て医学部に進みましたが、実は大学在学中も進路変更を真剣に考えていたほどです。
—では、医師としての出発点はどのようなものだったのでしょうか?
慈恵医大柏病院で研修を受けたのですが、当時としては珍しく複数科のローテーションも可能で、小児科を中心に幅広く経験できました。人手も少なくて非常に忙しかったですが、そのぶん多くの患者さんを診療できたことは今となっては貴重な財産です。
—小児科の中でも特に感染症に強みを持たれているのですね。
はい、小児科からスタートし、大学院では熱帯医学を専攻しました。当時多くの熱帯病の治療薬は国内未承認で、限られた研究環境の中、マラリアの基礎研究に取り組んでいました。その後、国立国際医療センターに異動してからは、マラリアやデング熱、腸チフスなど輸入感染症の患者を100例以上診療する機会をいただきました。
—開業を意識されたのはいつ頃でしょうか?
怒られてしまいますが、若い頃は“開業したら医者として終わり”という印象すら持っていたくらいです(笑)。ずっと最先端の医療を学びたいという思いが強くて。そして自分の目標であった大学管理職(診療科主任)になりとてもやりがいを実感しましたが、自身が積み上げてきたキャリアを実践する場が少なくなってしまいました。他にも様々な理由があり、大いに悩みましたが、現場で直接患者さんと向き合いたい、その想いを大切にしたくて、大学を辞して開業を決意しました。
—クリニック名にも強い想いが込められていると伺いました。
これまで積み重ねてきた臨床経験や研究を、もっと身近な形で社会に還元したい。そう考えたとき、“グローバルヘルス”という言葉が自然と浮かびました。国家や大学が関わるような大きなテーマに感じられる言葉ですが、私は’グローバルヘルス’を「ケア」する部分にこそ個人の医師が関与できると考えました。
—診療において大切にしていることは何でしょうか?
私が掲げているのは“4つのS”です。Safety(安全な医療)、Speciality(専門性の高い医療)、Satisfy(満足のいく医療)、Smooth & Smart(スムーズでスマートな医療)。これらを実現するために、何よりもわかりやすい説明を心がけています。さらに“Patient First”の理念のもと、患者さんの立場にたった医療を提供したいと考えています。
—実際の診療現場でのやりがいはどんなときに感じますか?
やはりリピーターの方が増えてくると、とてもありがたく感じます。専門性を求めて来てくださる方や、ホームページを詳細に見て下さる方など、こちらの診療方針に共感していただけるのは嬉しいですね。
—開業してから現在までのなかで、特に苦労されたご経験があればお聞かせいただけますか?
新型コロナが発生する半年前にクリニックを開業したんです。開業当初は本当に患者さんが来ない。さらに、3か月でスタッフが退職してしまい、そこからは看護師と2人だけで何とか業務を回していました。外来数は少なくてもやることは多くて、手が足りない状況が続いていました。今でも人材の確保には悩んでいます。当院は一般的な内科とは少し違う部分もありますし、業務内容が特殊なだけに、合う方を見つけるのが難しいという面もあります。
—反対に、経営をしていて「やっていてよかった」と感じる瞬間はどんなときでしょうか?
やはり、リピーターの方が増えていくのを感じると本当に嬉しいです。当院のことを信頼して通院してくださることは、何よりの励みになりますね。私自身のテレビや雑誌の取材などによるメディアを見て来てくださる患者さんは、比較的リテラシーが高くて、こちらの医療の方針や考え方をしっかり理解してくださる方が多い印象です。他の医療機関ではうまくいかなくて、改めて当院を選んで来てくださる方や、同業者の方がセカンドオピニオンを求めて受診されることも多く、大変光栄に感じています。
—これまでのキャリアの中で、特に印象に残っている出来事はありますか?
ベトナムの日本大使館で医務官を務めたことは、非常に貴重な経験でした。当時、世界的に鳥インフルエンザの懸念が高まっていた時期で、外務省本省(霞が関)とのやりとりも頻繁で、海外医療の最前線に立っている実感がありました。また、当時の皇太子殿下(現在の天皇陛下)の訪越に現地で同行させていただいたことは特に印象に残っている出来事です。
—その後は大学で管理職も務められたのですね。
東京医科大学では感染症科診療科長および感染制御部部長を務めました。デング熱やエボラウイルス病、MERSといった日本ではみられない感染症に対する専門的なコメントを求められ、メディア対応も増えました。とても充実した日々を送っていた反面、大きな組織の中では求められる多くの任務に対して自分のキャリアを実践することが難しくなり、自分が本当にやりたいこととのギャップにジレンマを感じていたのも事実です。
—経営理念についても改めてお伺いできますか?
いまの日本の医療制度では少なからず、まじめに診療すればするほど経営的に厳しくなるという側面があると思います。医療の“質”と“業”を切り分けて考えないと立ち行かない場面もありますし、理想だけを掲げ続けていては正直なところ、経営が成り立たないことがあります。だからこそ、「割り切る医業」として現実と折り合いをつけていかなければならないというジレンマを常に感じています。
—経営者としてのポリシーがあれば教えていただけますか?
理想を持ち続けながらも、現実との線引きをきちんとすること。それから、無駄は極力省き、自分でできることは自分でやるというスタンスですね。開業当初は、看護師と2人だけで診療を回していた時期もあります。そういう経験があるからこそ、自ら動くことの大切さと、それがもたらすメリットも実感しています。
—今後2〜3年でクリニックとして目指す姿はありますか?
申し上げにくいですが、まずは赤字を解消することが最優先ですね。規模を拡大するとか、手広くやっていくというビジョンは、現時点では考えていません。目の前にあるものを丁寧に、しっかりと続けていきたいと思っています。
—どういった患者さんに来ていただきたいとお考えでしょうか?
地域医療を担うクリニックとして、まずは地元の方々に気兼ねなく来ていただきたいです。特別なことではなく、“ちょっと体調が気になる”“予防接種をしたい”など、身近な医療ニーズに応えたいという思いがあります。同時に、感染症の専門相談など、医療の質を求めて来てくださる方にもしっかり応えていきたいと考えています。
—現在の集患状況についてはいかがですか?
波が大きいというのが正直なところです。まだまだ増やしていける余地はあります。特に渡航医療を必要とする方が、もっと来てくださると嬉しいですね。専門性の高い分野なので、そこに価値を感じてくださる方にもっと知ってもらえるようにしていきたいです。
—人材確保についても伺ってもよろしいでしょうか?
今も引き続きスタッフの募集は行っています。とはいえ、多くの人数を求めているわけではなく、必要な部分に的確にフィットする方を見つけたいのですが、なかなか難しい。地域柄外国人患者さんも多く来院されるので、ある程度の外国語ができる方はとても助かります。
—経営面で、今抱えている課題があれば教えてください。
良い人材はやはり大きな施設に行ってしまう傾向が強く、そこは常に悩ましいですね。小さな施設だからこそできることはあると感じてはいますが、人材とのマッチングにはどうしても時間がかかってしまいます。
—最近導入されたシステムやサービスの中で、これは導入して良かったと感じるものがあれば教えていただけますか?また、他のクリニックにもおすすめできると感じるものがあれば、ぜひ伺いたいです。
やはり電子カルテと連携したウェブサイトによる予約・問診システムは大きいですね。紙よりも圧倒的に効率が良くなりますし、患者さんの待ち時間もだいぶ短縮できます。それから、セミセルフレジも便利です。支払い方法が幅広く選べますし、毎日の集計時間もぐっと減りました。人手が限られている場面では特に効果を実感します。他のクリニックでも取り入れやすい仕組みだと思います。
—先生の“これからの夢”についてお聞かせください。
医学だけではなく旅行業の視点からも『Travel Medicine』という分野をもっと一般の方に届けたくて、国家資格である旅行業務取扱管理者免許を取得し、趣味であるダイビングではインストラクターにもなりました。理想ではありますが、ライセンスを活用して健康管理を含めた海外旅行やダイビングツアーのプロデュースができれば良いですね。
—最後に、これから開業を目指す先生方にメッセージをお願いします。
特に都市部で開業することはとても厳しい環境になります。競合する施設の中で自分の強みが生かせる分野を築く一方で常に学び続ける姿勢をもつこと。そして患者さんと真摯に向き合うというプライマリケア医のマインドを忘れず、ブレない軸を持ち続ければおのずと信頼は得られるのではないでしょうか。
Profile
院長 水野 泰孝
終始冷静ながらも、ところどころで柔らかな笑顔を見せてくださった水野先生。国際的な医療現場から地域に根ざしたクリニックへと舵を切った決断には、常に“現場で診る”という医師としての信念がありました。「グローバルヘルス」は組織のものではなく、個人でも担えるもの。そう語る先生の姿勢に、これからの時代に必要な医療のヒントが詰まっていると感じました。