医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
「絶対患者さんの不利益にならないようにする」という信念。元東大病院の血管外科医、きむら内科外科クリニック院長が地域の方々に信頼される理由
きむら内科外科クリニック
院長 木村 秀生
9年前に埼玉県川口市で開業した「きむら内科外科クリニック」。院長の木村秀生先生は、東京大学医学部附属病院や国立がんセンター研究所、米国スタンフォード大学など、国内外の最高レベルの医療機関で多くの経験を積んだ、輝かしいキャリアを持つドクターです。しかし、その経歴を経て行き着いたところが地元密着で患者さんを一人の人間として全体を診る「全人的な医療」です。なぜ、医師を志したのか、高度な専門分野から地域医療への転身を決意されたのか。そして、そこには、先生が様々な場面で経験した個人的な体験が深く関わっていました。今回は、きむら内科外科クリニックの木村秀生院長に、開業への想い、診療哲学、そしてこれからの展望について、じっくりとお話を伺いました。
—木村先生が医師を志すきっかけと血管外科医を目指した理由についてお聞かせいただけますでしょうか?
実は、私の家族や親戚には医師がおらず、小さい頃から医師になろうとは全く考えていませんでした。転機となったのは、母の病気でした。母は耳下腺がんを長年患っており、私が高校生のときは既に体調が悪かったのですが、父は私にその病気のことを伏せていました。現役で東京大学理科I類(理工学部)に入学しましたが、大学受験後に父から母の病気が末期がんであることを告げられ、「医師になりたい」という気持ちが強く芽生えました。さんざん悩んだあげく、医学部を目指して再受験するため、東大を休学し、予備校に通い始めました。 翌年には東京大学理科III類(医学部)になんとか合格することができましたが、残念ながら母親は私の医学部入学の知らせを聞く前に亡くなってしまいました。 私は身体を動かすことが好きで、さっぱりとした性格から自分は外科系に向いていると思い、東大病院の外科に入局しました。外科の研修先として地方の病院に赴任していたとき、衝撃を受けたのが腹部大動脈瘤破裂の手術です。大動脈瘤破裂は一秒を争って手術をしなければ、高い確率で死亡する病気です。これに対応できるのは血管外科医という特殊な技能を持った医師しかいません。その姿に憧れて私は血管外科を専門に選びました。
—輝かしいご経歴をお持ちの先生が、埼玉県川口市で開業された経緯についてもお聞かせください。
私は結婚以来、30年近く妻の実家がある川口に住んでおります。妻の実家ももともと川口で開業医をしていました。大学院時代に在籍していた国立がんセンター研究所(千葉県柏市)は都内より、川口から通う方が便利だったこともあり、妻の両親に子育てのサポートをしてもらいながら、この地に長く住むことになりました。慣れ親しんだこの地域には親戚や知人が多く、「身近な地域の人たちを救いたい」という思いから、今の場所川口での開業を決意しました。
—きむら内科外科クリニックの診療スタンスについてお聞かせください。
私は常に二つのことを心に留めて診療をしています。一つ目は、「人間を、単に臓器の集合体と見るのではなく、心の内面も含めて一人の人間として診察すること」です。大学病院などの大病院では各科の医師が自分の専門の病気だけを診察して、そのほかの病気は他の専門の医師に任せるといった形を取ります。しかし、患者さんのなかには複数の科にまたがる病気を持っている方が多く、治療のためにはその患者さんの社会的背景や家族の問題を聞き出すことがとても大切です。このような患者さんを救うには大病院ではなく地域に根差すクリニックの医師がもっとも適切だと思い、開業いたしました。二つ目は、「当クリニックに来た患者さんが不利益を被らないにすること」です。当院を受診したため、病気の診断や治療が遅れるといった事態は医師として絶対に避けたいと考えています。診察で得られた所見や検査結果に矛盾があれば、なぜなのか、診断に間違いは無いかいつも自問しながら、診療に当たっています。
—患者さんの全人的な医療のために、どのようなことに気を付けていますか?
患者さんが診察室に入ってきた瞬間から診療は始まっています。表情、姿勢、歩き方といった様子を観察し、頭から足まで全身を診察して、身体的な異常がないか確認をします。同時に家族や仕事の話なども含めてよく聞き、総合的に診断を行います。お腹が痛いという患者さんでは、虫垂炎や胆のう炎など直ちに治療が必要な方もいれば、ストレスによる胃腸の運動障害で、お話しするだけで症状が改善する方もいらっしゃいます。時間はかかりますが、手を抜かずきちんと診察することにより重症か軽症かを正しく区別できると思っています。
—「患者さんの不利益にならない医療」を実現するために、クリニックで工夫されていることは何でしょうか?
丁寧な診察以外には、院内で迅速な診断ができるよう、医療機器を充実させています。血液検査機器、レントゲン、エコー、内視鏡といった複数の機器を活用することで診察当日に診断ができる体制を整えています。また、外科として、外傷や皮膚の炎症などに対して、切開や縫合など外科処置を直ちに行います。当院で対応が困難、または専門外のことに対しては、地域の病院をご紹介しています。
—開業医の先生が直面する課題として、人材採用が挙げられることが多いかと思いますが、先生のクリニックではいかがでしょうか?
私が開業した10年前と今では、人材募集の状況は全く異なります。現在、職員の新規採用は非常に困難で、即戦力となる優秀な人材を確保することは最大の課題の一つでしょう。幸い、当クリニックではこの数年にスタッフの入れ替わりがほとんどなく、定着しています。
—スタッフの定着のために、どのような工夫をされていますか?
妻の存在が非常に大きいですね。妻は事務長として常駐し、私には言いづらいスタッフの不満や愚痴を聞く「受け皿」になってくれています。また、職員同士の問題も、私が気づく前に察知して、早期に危機回避をしてくれています。また、患者さんからの心無い言葉など、スタッフに負担がかかるようなクレームに対しては、私が矢面に立ち、職員を「守っている」という意識を持ってもらうよう心がけています。
—これから開業を目指す医師たちへ、開業前に準備しておくべきアドバイスやメッセージはありますか?
正直なところ、今の保険診療だけでは経営が厳しく、安易な開業はおすすめしません。しかし、「これをやりたい」という強い理念や志があれば、突き進むべきだと思います。初期投資はなるべく少なくすることが重要です。高額な機器を購入する際は複数の業者から見積もりを取り、購入費用を抑えるとともに、メインテナンス料が高くならないかの確認も必要です。 開業直後は患者数が少ない分だけ、一人一人に時間をかけて丁寧な寄り添う診察ができるはずですので、患者さんを大切にする気持ちがあれば、患者さんは自然と増えていきます。
—今後の展望として、特に力を入れていきたい分野はありますか?
現在、「むくみ」の診療に力を入れています。足のむくみは非常によく見られる症状ですが、これで悩んでいる方は、どこの科の先生に相談したら良いか迷っていると思います。整形外科では「骨に異常はありません」、普通の内科では「夜寝るときに足を上げましょう、きついストッキングをはきましょう」と言われるだけで、結局は何がむくみの原因だか、しっかりとした説明を受けた方は少ないと思います。足のむくみには、心臓や腎臓、肝臓など内臓の病気、静脈やリンパ管の異常など血管の病気、薬の副作用、悪性腫瘍など様々な原因が隠れているため、その原因を特定することが困難なことが珍しくありません。血管外科と内科に精通し、多くのむくみの診察をしてきた自分の経験を最大限に活かして、一人でも多くの方を救いたいと考えています。
—保険診療だけでなく、自由診療としての美容皮膚科を始められたと伺いました。
病気の方はその病気を治してもらう、医療機関でこれは当たり前のことですが、では、健康な方は何を求めるでしょうか?健康な方はより健康に若々しくなりたいと思う気持ちが強いと思います。そのように健康な方の希望を叶えるために美容皮膚科を始めました。ピコレーザー機器を用いたシミ取りや、くすみ・小じわの改善を得意としています。当院では病気の方も健康な方も当院ではどちらも満足して頂ける対応が取れると自負しています。
—最後に、医師として今後どのような未来を目指していきたいか教えてください。
今後、規模を拡大する希望はなく、これ以上手を広げると医療の質が落ちると思っています。診療内容を自分一人でできる範囲に留め、血管外科や乳腺・甲状腺など自分の専門性を最大限に活かすこと。そして、一人でも多くの患者さんを、私の経験と技術で救ってあげること。それが、私にとって最も重要なことであり、医師としての夢でもあります。
Profile
院長 木村 秀生
1990年に東京大学医学部附属病院で外科研修医としてのキャリアをスタート。以降、国保旭中央病院外科、東京大学医学部附属病院第二外科、国立がんセンター研究所支所、埼玉医科大学総合医療センター外科といった国内の主要な医療機関で経験を重ねました。さらに、2002年から2005年にかけては、米国Stanford大学医学部血管外科およびJohns Hopkins大学医学部遺伝子医学にて海外での研究にも従事、特にJohns Hopkins大学で指導を受けたGregg Semenza教授は2019年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。帰国後、2005年からは東京大学医学部附属病院血管外科で中心的な役割を果たし、その後、温知会 間中病院外科部長・副院長を経て、2016年に地域密着の「きむら内科外科クリニック」を開院されました。血管外科医としての高度な専門知識と、国内外の最前線で培った豊富な経験を活かし、患者さんを総合的に診療する、地域に不可欠な存在として活躍されています。