地域医療への熱い思いと子どもたちへの優しさが詰まったクリニック–くくるの森みみはなのどクリニック 吉田 真也 院長 インタビュー
2025.11.25
神戸の街中に脳の専門医師がいつでもいる安心を。「脳神経内科くすのき診療所」院長が掲げる「地域のかけはし」への想い
脳神経内科くすのき診療所
院長 苅田 典生
神戸のウォーターフロント、ハーバーランド。その一角にあるプロメナ神戸に「脳神経内科くすのき診療所」はあります。院長を務めるのは、神戸大学医学部附属病院で長年、脳神経内科の最前線に立ってきた苅田典生先生です。 脳神経内科の疾患は、頭痛といった身近な悩みから、パーキンソン病やALSなどの難病まで多岐にわたります。しかし、その専門性の高さゆえに、一般のクリニックでは十分な診断が難しいケースも少なくありません。苅田先生はなぜ、あえて大学病院を出て、この地に診療所を構えたのでしょうか。地域医療への熱い思いと、専門医師としてのこだわりを伺いました。
—先生が医師を志したきっかけを教えてください。ご家族に医師がいらっしゃったのでしょうか?
いえ、実は親族に医者は一人もいなかったんです。もともとは文系志望だったのですが、周囲から「理系に行って文学者になる道もある」と勧められました。ちょうどその頃、テレビドラマの『赤ひげ診療譚』を観て、非常に格好いいなと感じたのも大きかったです。家族の中に一人くらい医者がいたら心強いだろうという、親の期待もあり医学部を目指しました。
—神戸大学病院で24年もの間、重責を担ってこられました。なぜ、あえて「開業」という道を選ばれたのですか?
大学病院で長く外来を担当する中で、「こうした専門的な診療は、病院の中だけではなく、もっと外(地域)でやらなければならない」と強く感じるようになったんです。大学病院は紹介状が必要で、受診のハードルがどうしても高い。でも、脳の病気に悩む患者さんは街中にたくさんいます。そうした方の「最初の窓口」になりたいと考えました。
—診療所の名前に「くすのき」と付けられた理由を教えてください。
神戸大学の大半の学部は六甲台地区にありますが、医学部と附属病院は離れており大学内では、その地名から「楠(くすのき)地区」と呼ばれています。私にとって「くすのき」は母校であり、長年過ごした場所の象徴です。この診療所を、いわば「神戸大学病院・脳神経内科の学外・外来部門」のような存在にしたいという覚悟を込めて名付けました。医師会からは「自分の名前を名乗りなさい」と怒られましたが、このこだわりだけは譲れませんでした。
—脳神経内科というとMRIなどの大型設備が必須というイメージがありますが、こちらには置いていないそうですね。
あえて置いていません。脳神経内科の本質は、まず「詳細な診察による正確な局在診断」にあります。患者さんの話を詳しく聞き、神経学的な所見を丁寧に取る。その上で、本当に画像が必要なのか、必要なら、どの部位の画像を撮るのかを判断するのが我々の仕事です。画像ありきではなく、まずは人間を診る。そこを一番大切にしています。
—画像検査が必要な場合は、どのように対応されているのですか?
幸い、近隣にMRIを含めた画像専門の検査施設があります。外部の画像診断専門の医師による読影と、私自身の診察によるダブルチェックができる。この体制を構築することで、患者さんには常に客観的で質の高い診断を提供できていると自負しています。
—初診の患者さんを診る際に、特に意識しているポイントはありますか?
「見逃しをしないこと」に尽きます。当院には、頭痛で来られる方が3分の1ほどいらっしゃいますが、その中に重大な病気が隠れていないか細心の注意を払います。もし自分の診察で判断が難しいと感じたときは、すぐに大学病院の適切な診療科へ連絡を取ります。そのスピード感こそが、地域における専門クリニックの役割だと思っています。
—診療を続ける中で、最も喜びを感じるのはどのような瞬間ですか?
他の病院で「異常なし」と言われたけれど、どうしても調子が悪い……と悩んで来られる方がいらっしゃいます。例えば初期のパーキンソン病などは、MRIには写りません。そうした方の症状を細かく診て、病名と今後の治療方針を伝えられたとき、患者さんから「こんなに丁寧に診てもらったのは初めてです」と言っていただけると、この場所を作って良かったなと心から思います。
—開業されてから現在まで、苦労されたエピソードはありますか?
経営面ではやはり波がありましたね。ようやく軌道に乗ったところでコロナ禍になり、患者さんがパタッと来なくなった時期は心配しました。逆にその後は反動で一時的に患者さんが増え、スタッフが忙しすぎて悲鳴を上げることもありました(笑)。今はスタッフも定着し、非常に良いチームで診療ができているので、気持ちとしては楽になりました。
—最近のデジタル医療(AI診断など)についてはどのようにお考えですか?
便利にはなるでしょうが、脳神経内科医としては「患者さんのわずかな動きの変化」や「話し方」から得る情報に勝るものはないと思っています。もちろん新しい技術は否定しませんが、最後はやはり対面での診察と、医師としての経験に基づいた判断、そして患者さんの気持ちに寄り添った説明が重要だと信じています。
—これからの「くすのき診療所」の展望を教えてください。
まずはあと数年、しっかりとこの診療所を守り抜くこと。そして、大学病院の先生たちに「外来の一部」としてここをもっと活用してもらえるような、より強固な連携体制を築いていきたいですね。週に数回、大学から若い先生が来て診察をしてくれる今の流れをさらに太くしていきたいです。
—先生にとっての「夢」は何でしょうか?
私の背中を見て、後輩たちが「こんなスタイルでも地域医療に貢献できるんだ」と感じてくれることです。脳神経内科という専門性の高い分野でも、街中で患者さんに寄り添うことはできる。こうした「専門医による街の窓口」が全国の各地域に増えていくことが、私の今の願いであり、夢ですね。
—最後に、これから開業を目指す若い医師へアドバイスをお願いします。
「何をやりたいのか」という理念をしっかり持つことです。今の医療制度は厳しい面もありますが、確固たるビジョンがあれば、必ず助けてくれる人や共感してくれる患者さんが現れます。本を読んで勉強するだけでなく、信頼できる先輩や他業種の人々など、色々な人の意見を聞きながら、自分なりの地域医療の形を作っていってほしいですね。
Profile
院長 苅田 典生
脳神経内科くすのき診療所の理事長・院長を務める苅田 典生(かんだ ふみお)先生は、神戸大学医学部を卒業後、同附属病院や北野病院などで研鑽を積まれました。東京大学医学部脳研究施設、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)への留学を経て、国立療養所兵庫中央病院の神経内科医長を務めました。 その後、神戸大学医学部附属病院にて神経内科診療科長、大学院准教授、特命教授、総合臨床教育センター長などの要職を歴任されました。2017年には、地域医療に貢献すべく「脳神経内科くすのき診療所」を開設されています。現在も神戸大学医学部の客員教授を兼任し、豊富な臨床経験をもとに後進の育成と地域医療の発展に尽力されています。