Interviewインタビュー

京都駅さかぐち小児科ハートクリニック院長が切り拓いた小児心臓移植の夜明けと描く未来の医療

京都駅さかぐち小児科ハートクリニック

院長 坂口 平馬

現代の医療は日々進歩を遂げていますが、その最前線で難病と懸命に向き合い、新たな道を切り拓いてきた医師がいます。京都駅直結という利便性の高い場所で開業された「京都駅さかぐち小児科ハートクリニック」の坂口平馬院長は、日本の小児心臓移植の黎明期を支え、数多くの幼い命を救ってこられました。坂口院長が専門とする小児循環器分野は、先天性の心疾患をはじめとする重篤な病を扱い、患者さんの人生を生涯にわたってサポートする使命を帯びています。本インタビューでは、坂口院長が医師を志したきっかけから、その専門領域での画期的な取り組み、そして開業という新たな挑戦を通して見据える「未来の医療」について深く掘り下げていきます。小児医療の最前線で戦い続けた院長の情熱と、一人の医師としての確固たる信念が垣間見える貴重なお話です。

難病と向き合い続けた小児循環器のスペシャリスト–京都駅さかぐち小児科ハートクリニック 院長 坂口 平馬インタビュー

医師を志したきっかけ

さっそくですが、医師を志されたきっかけについてお聞かせください。

開業医だった祖父を尊敬していたことが、医師を志す大きなきっかけとなりました。

勤務医としてのご経験の中で、なぜ数ある専門分野の中から小児循環器、特に心臓移植という分野に深く関わることになったのでしょうか?

大学院時代にアレルギーの研究を行っており、その免疫学的な背景が、後の感染免疫や免疫機構全般に関する知識の土台となりました。その後、心臓病に強い興味を持ち、心疾患を専門にしたいという思いで国立循環器病センターに入り、小児の心臓病を深く修行する中で、さらに心臓移植の世界へと足を踏み入れることになったのです。

坂口先生のキャリアの中で、小児循環器以外の分野、例えばアレルギー学の研究がどのように活かされたのか教えていただけますか?

アレルギー反応は、体にとって異物を排除しようとする免疫反応の一つであり、この免疫の形が感染症への防御反応とモデルとしては全く同じなんです。この経験から、心臓移植後の免疫抑制剤を扱う医療や、感染症への対応など、現在の専門分野においても免疫学の知識が非常に役立っています。

専門領域と革新的な取り組み

日本の小児心臓移植の黎明期を支えられたと伺っています。特に2010年の臓器移植法改正を巡る取り組みについて詳しくお聞かせください。

日本の心臓移植は非常に困難な状況にありましたが、2010年の臓器移植法改正によって、それまで現実的に不可能だった小児の移植が可能になりました。私はその法改正の前から準備を始め、改正後には国内での移植ができるよう尽力しました。改正後もすぐに国内での移植は難しかったため、2017年頃までは海外渡航移植に依存せざるを得ず、私は募金活動をサポートし、メディカルジェットに同乗して子どもたちをアメリカへ連れて行き、移植を受けさせて帰国させるという事業を献身的に行っていたのです。

移植医療以外の分野で、特に豊富なご経験をお持ちの治療法があれば教えてください。

心不全の治療法の一つとして、ペースメーカーで心臓の収縮力をサポートする心臓再同期療法があります。これに関しては、おそらく日本で最も多くの症例を経験してきたと自負しています。この治療は不整脈についても詳しくなければできないため、不整脈治療も私の強みの一つです。

小児心臓移植が可能になった後の国内での状況はどのように変化しましたか?

2017年頃から徐々に日本でも心臓移植ができるようになり、2019年には子どもだけで19人の心臓移植が実施されるまでになりました。その後、コロナ禍で一時的に件数は減りましたが、現在では年間平均15人程度の小児の心臓移植ができるようになっています。私は国内での移植体制が整ったことで、「もう私の役目は良いかな」と思い、開業という道を選びました。

開業への道のりと経営

開業を決意するまでの心境の変化や、開業準備で最も苦労されたことは何ですか?

長年勤務医をやってきたので、開業は「夢」しか持っていませんでした。しかし、開業してからは、保険請求や行政への届け出の仕組み、そして何よりビジネスの世界の何も分かっていなかったことを痛感しています。開業前にそうしたことをもっと勉強すべきだったと後悔しており、始まってからのほうが正直しんどいです。

開業されてまだ間もないですが、現時点での経営上のポリシーや、スタッフ採用において特に意識されていることはありますか?

経営者としてはまだ「理念」は確立途上ですが、私は自分の理想を追求したいという気持ちが強いです。スタッフ採用においては、特に心臓病を抱えることで就職にハンディキャップを持つ方々をサポートしたいという思いがあります。例えば、当院ではアメリカで移植を受けたものの、後に亡くなった患者さんのお母さんを事務員として採用しています。これは、彼らが社会に貢献できているという自己肯定感を得られるような受け皿になりたいという私の考えに基づいています。

理想とする未来の医療と夢

坂口院長が考える、今後の医療のあり方や、理想とする「次の夢」についてお聞かせください。

医師としての夢は、最先端の医療を追求し、トップを走ってきた経験から、概ね実現し尽くしたと感じています。私の「次の夢」は、患者さんの一番近いところで、彼らが今困っていることに寄り添っていける医師として人生を終えることです。これは、幼い頃に見ていた町医者だった祖父の姿とも重なります。

その「次の夢」を具体的に実現するための計画はありますか?

子どもたちが健全な心を持って成長できる社会を作ることが目標です。現代は共働きが多く、子どもが健やかに育つメンタルの土壌が失われつつあります。そこで、当院では病児保育の要素も含んだ「母親ラウンジ」のような場所をクリニックと連携させて作りたいと考えています。

母親ラウンジの事業をどのように拡大していくお考えですか?

この事業をビジネスとして展開し、京都の企業が福利厚生費として資金を提供することで運営する仕組みを作りたいと考えています。この仕組みが成功すれば、京都から大阪や神戸にも展開し、子どもの発達をサポートし、未来の日本を支える健全な大人を育成する一助となりたいというのが、私の大きな夢です。

Profile

院長 坂口 平馬

平成9年に岐阜大学医学部を卒業後、平成14年に同大学院にてアレルギーの研究で学位を取得しました。その後、日本赤十字社和歌山医療センターで小児不整脈治療、国立循環器病センター小児科でレジデント研修を積み、岐阜県総合医療センターを経て、平成20年からは国立循環器病研究センター小児循環器内科のスタッフドクターとして長きにわたり勤務されました。特に日本の小児心臓移植の制度が整う以前から、海外渡航移植の支援に奔走し、多くの子どもたちの命を繋いできました。この比類なき経験と技術は、現在の「京都駅さかぐち小児科ハートクリニック」での診療の土台となっています。令和7年7月に国立循環器病研究センターを退職し開業。これまでの豊富な経験を活かし、患者さんの人生に寄り添う医療の実現を目指しています。

会社情報

医院名

京都駅さかぐち小児科ハートクリニック

設立

2025年