地域に根ざして歩む、おかざき足の血管外科痛みのクリニック院長のストーリー
2025.09.11
一人ひとりに向き合う整形外科医の挑戦
目黒駒沢リハビリ整形外科クリニック
院長 藤田 典往
2021年10月、目黒区東が丘に開業した「目黒駒沢リハビリ整形外科クリニック」。整形外科専門医として急性期医療に従事し、さらにリハビリテーション科専門医として回復期リハビリテーション病棟の立ち上げにも携わってきた藤田典往院長は、「病気になってから」ではなく「なる前に」寄り添う医療の在り方を重視しています。今回のインタビューでは、開業に至るまでの経緯から、診療へのこだわり、人材育成に対する考え方、そして今後のビジョンまで、率直かつ丁寧に語っていただきました。一人ひとりの患者にしっかりと向き合う姿勢と、院長としての柔らかな人柄を感じていただける内容となっています。
—先生が医師を志したのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
小さい頃は、どちらかというと大人しい性格でした。人前で何かを話すよりも、静かに本を読んだり考えごとをするような子どもだったと思います。 中学生の頃に漫画の『ブラック・ジャック』を読んだのが、医療に関心を持つようになったきっかけですね(笑)。人の命に向き合う職業として、どこか惹かれるものがありました。 実は高校生の頃には宇宙物理学などにも興味があり、進路に悩んだ時期もあったのですが、成績が医学部に届くようになってきたこともあって、最終的には医師の道を選びました。
—当初は勤務医としての道を歩んでいらっしゃったと伺いましたが、開業を決めた背景には何があったのでしょうか?
正直に言うと、開業の予定はまったくなかったんです。このまま勤務を続けていくものだと思っていました。しかし、前職の同僚の後始末に疲れていた所、妻の実家が土地を持っていたので、これを有効利用することを考えて開業の話が出たという流れでした。最終的に「自分のやりたい医療をやろう」と腹をくくりました。
—診療の専門を教えていただけますか?
日本病院機構整形外科専門医および日本病院機構リハビリテーション科専門医で、日本抗加齢医学会の専門医でもあります。運動器だけでなく、脳血管疾患やむせ・飲み込みのリハビリから抗加齢医療まで幅広い症状に対応しています。
—クリニックの診療科目は整形外科とリハビリテーションとのことですが、診療の際に意識していることがあれば教えてください。
患者さんにはなるべく一つでも問題解決して、満足して帰っていただけるようにと常に考えています。そのためには、しっかり話を聞いて、必要なことだけをすることを意識しています。ヒポクラテスの「まずは害することなかれ」という言葉を大切にし、本邦の法律にのっとった医療を心がけていますが、西洋医療のみにこだわらず、良いとこどりの医療を実践しています。
—差し支えなければ、開業にはどれくらい費用がかかったのでしょうか?
土地はもともと妻の実家にありましたので、住宅兼クリニックという設計にしています。具体的な費用は記載しませんが、リースは最小限に留めました。
—人材採用についてお聞かせください。現在採用に苦労している先生方が多くいらっしゃいますが、順調でしたか?
いや、非常に困っています(笑)。開業当初は特に大変で、院長指示に従ってちゃんと働いてくれる人がなかなか見つかりませんでした。都内だと働き口が多いので、なかなか定着しませんでした。それでも職員の質は次第に改善され、ようやく最近、少し落ち着いてきたところです。
—採用の方法はどうされていますか?
ハローワーク、ジョブメドレー、そして自院のホームページですね。ホームページ経由の応募が一番求職者の質がいいです。以前は紹介会社も使っていましたが、短期間で辞めたりトラブルのもとになったりするなどがあり、紹介会社に頼る人材はよくないという結論に達しましたので、今はお断りしています。
—スタッフ教育において、大切にされていることは何でしょうか?
本人たちの勉強意欲を大事にしています。外部の研修会に行ってもらうための費用も出していますし、院内での勉強会も実施しています。特に漢方に関しては、ツムラさんのご協力で定期的に勉強会を開いています。
—開業後、特に大変だった出来事を教えてください。
やっぱり労務関係ですね。すぐに辞めてしまったスタッフがいたのですが、その影響が患者さんや他のスタッフにまで及んでしまったことがありました。また、職員対応を弁護士の先生にお願いしたこともありました。今はようやく雰 囲気も良くなって落ち着いていますが、人材はまだまだ不足しているのが現状です。
—逆に、嬉しかったりやりがいを感じたエピソードはありますか?
患者さんから感謝の言葉をいただいたときはもちろんですが、スタッフが患者さんに褒められたときは特に嬉しいですね。また、患者さんが自分の知り合いを連れてきてくださったり、ご家族で受診していただいたりすると励みになります。
—経営理念についても教えてください。
理念は別にありますが、大事にしていることは「大切なものは目に見えない」という事です。みんなが気持ちよく働けているのは、誰かが見えないところで支えてくれているからだと考えています。これは普段から口酸っぱく言っています。患者さんに満足して帰ってもらうために、接遇面にも力を入れています。
—今後のビジョンについてはいかがでしょうか?
整形外科中心の診療を継続しつつ、脳血管障害や認知症を含めたリハビリあるいは抗加齢医療にも力を入れていきたいです。幅広く頼りにされる何でも相談できる❛かかりつけ医❜であること、来てよかったという❛安心感❜を提供出来るクリニックであることを目指していきたいと考えています。
—どのような患者さんが多く来られていますか?
高齢者の多い地区ときいていましたが、開業してみたら来院されるのは30〜50代の若い方が多くて想定外でした(笑)。お子さん連れのお母さん方も多いです。私自身が育児中なので、そのあたりの親しみやすさもあるのかもしれません。
—現状の集患状況はいかがですか? 今後、さらに増やしていける手応えはありますか?
まだまだ増やせると思っていますが、リハビリスタッフが増えないと対応できないので、そこは悩みどころですね。最近はクリニックにアクセスする路線に野立て看板を5枚設置して認知度の向上を試みたり、、Instagramでは毎日予約状況を更新しています。
—導入して良かったと感じているシステムはありますか?
自動精算機と予約システムですね。開業時から導入していますが、会計の手間が省けてすごく助かっています。受付事務の残業はほぼありません。予約システムでの事前問診も利用し、外来の流れをスムーズにできています。
—先生にとっての夢があれば教えていただきたいです。
病気になる前の段階、いわゆる“未病”の段階で介入していけるようにしたいです。健康への意識を、もっと地域の方に持っていただけるよう働きかけていきたいと思っています。 妻が歯科医師なので、歯科との連携も強化しています。 噛み合わせが崩れると、首や体のバランスが崩れて全身に影響するので、顎関節へのアプローチなども重視しています。
—実際に開業してみて、やらなくてもよかったなと感じたことはありますか?
電柱広告とバス広告ですね(笑)。設置はしたんですが、ほとんど反応がなくて、費用対効果は正直なかったです。電柱広告は視認性も低いですし、バスのアナウンスなど誰も聞いていませんので、今後もおすすめはしません。あとは無影燈かな。縫合などもあるかと思って揃えましたが、リスクと効率を考えて縫合などは全くしていません。
—逆に、これはやっておいてよかったと思うことがあれば教えてください。
予約システムと自動精算機の導入は良かったですね。業務効率が一気に上がります。 LANや配線については、本当に「これでもか」というくらい最初に作っておいたほうがいいです。私は多めに準備したつもりでしたが、それでも足り ませんでした(笑)。あとから追加するのは大変なので、初期の段階で余裕を持たせるのがコツだと思います。また、電子カルテはクラウド型をお勧めします。そもそも国の方針はクラウドですので、当院もクラウド型への変更を予定し てます。
—最後に、これから開業を検討している先生方や、同じような境遇の方に向けてメッセージをお願いします。
まずお伝えしたいのは、「税理士や社労士の選定を甘く見ないこと」です。特に社労士は、開業後のトラブル対応やフォローまでしっかりしてくれる方を選ぶことが大切です。多少コストがかかっても、そこにはしっかり投資したほう が良いです。また、先生同士の交流会や情報交換の場にはできるだけ参加してほしいです。リアルな声を聞ける貴重な機会ですし、共感できる仲間とのつながりが開業後の支えになります。さらに、コンサルタントを入れるのもひとつの手です。客観的な視点でのサポートがあると、自分ひとりでは気づけないことにも対応できるのでお勧めです。
Profile
院長 藤田 典往
インタビューを通して印象的だったのは、藤田院長のどの言葉にも「患者さんの生活を支えたい」という真摯な姿勢がにじんでいたことです。整形外科としての技術や知識はもちろん、予防医療への視点、チーム医療における感謝の精神、そしてスタッフ一人ひとりへの気遣いまで、すべてに目が行き届いている様子が伝わってきました。 「何か一つでも解決して帰ってほしい」という姿勢は、医療従事者としての誠実さそのもの。地域に根ざす“かかりつけ医”として、これからさらに多くの患者さんの支えになっていくのだと感じさせられました。