Interviewインタビュー

患者様の「スキマ時間」に寄り添う医療

小野百合内科クリニック

院長 小野 渉

北海道札幌市、オフィス街の中心に位置する小野百合内科クリニック。地域に根差したクリニックとして、糖尿病や生活習慣病、甲状腺・内分泌疾患の専門的な診療を提供しています。特に、ビジネスパーソンなどの忙しい世代が通いやすいよう、予約システムや診察プロセスに工夫を凝らし、質の高い医療を「スキマ時間」で受けられる環境を整備されています。 今回、クリニックの院長を務める小野 渉先生に、医師を志したきっかけから、ご両親からクリニックを継承された際の苦労、そして地域医療への熱い想いと、ご自身の経験を活かした働きやすいクリニック経営の理念について、じっくりとお話を伺いました。地域医療の未来を担う先生の、真摯かつ合理的な経営手腕は、これから開業を目指す医師や、子育てと仕事を両立したい医療従事者の方々にとっても、大きなヒントとなるはずです。

医師としての使命と経営手腕が融合「小野百合内科クリニック」小野 渉院長が描く、地域医療の未来と働きやすいクリニック経営

医師を目指したきっかけと開業の経緯

先生が医師を志されたきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか?

私の父と母が医師だったということもあり、幼い頃から医療というものが身近にありました。その中で、私が中学生くらいの時に大病を患い、約3ヶ月ほど学校を休み、入院することになったんです。その入院生活での経験から、自分と同じように病気で苦しんでいる人を治したいという思いが強くなり、医師を目指しました。

その後、ご自身のクリニックを開業ではなく、ご両親のクリニックを継承された経緯についてお聞かせください。

もともと、母が糖尿病のクリニックを営んでいました。その母が引退することになり、「この地域で医療を継続したい」という思いと、母の気持ちを引き継ぎたいという思いから、継承という形で院長に就任しました。

継承にあたり、費用面でご苦労されたことはございますか?

はい、実は費用は結構かかりました。継承したクリニックは20年前から運営されており、設備もかなり老朽化していました。そこで、電子カルテの導入、ネット予約システムの整備、内装の刷新、そして医療機器の買い替えを全て行ったんです。ほとんど新規開業に近い形でのリニューアルとなりました。

診療へのこだわりとクリニック経営の工夫

小野百合内科クリニックの専門分野について改めて教えていただけますでしょうか?

はい。主な専門分野は糖尿病やそれを含む生活習慣病です。その他に甲状腺や内分泌疾患も扱っています。また、近年は肥満外来にも力を入れており、肥満治療についても積極的に取り組んでいます。

診療にあたって、先生が特に意識されている点や大切にされていることは何でしょうか?

当クリニックはオフィス街にありますので、患者様はオフィスワーカーの方々が多いのが特徴です。そのため、外食が多かったり、仕事の合間の時間調整が難しかったりと、生活のリズムを整えるのが大変な方が少なくありません。そこで、患者様一人ひとりの生活スタイルに合わせた治療計画をご提案することを常に意識しています。

継承されてから、現在に至るまでに最も苦労されたエピソードがあればお聞かせください。

最も苦労したのは、やはり患者様の層の違いでした。私は以前、総合病院や大学病院で勤務しており、そこに来る患者様は平日休みを取ってでも3〜4時間かけて来院できる方が多かったんです。しかし、クリニック、特に都市部で働く患者様は、お昼休みなどの「スキマ時間」を利用して1時間で診察を済ませたいという方が多いです。この「客層の違い」に対応することが、非常に大変でした。

その課題に、どのように対応されたのでしょうか?

主に二つの方法で対応しました。一つは、ネット予約と完全予約制を導入し、診察の流れを効率化して、患者様の院内滞在時間を1時間以内に抑えるように努めたことです。もう一つは、私一人で外来を回していましたが、事務スタッフであるシュライバー(医師事務作業補助者)を雇い入れることで、医師の事務作業を減らし、外来をより早く回せるようにしました。

経営者として、黒字化するための具体的な戦略についてもお聞かせいただけますでしょうか?

継承した当初は患者様が非常に少なく、1年目は正直赤字でした。しかし、2年目、3年目には黒字化することができました。戦略としては、先ほど申し上げた「患者様の滞在時間を減らす」ことで「診察できる患者様の数を増やす」ということに加えて、土曜日の診療を開始したことが大きいです。土曜日に通院したいという働く世代のニーズに応えることで、患者様の数を増やすことができました。 また、集患対策として、Google広告やSNS広告にも取り組みました。これらを組み合わせることで、徐々に軌道に乗せることができたと考えています。

経営者としての理念と働く環境への配慮

医師としてだけでなく、クリニックの経営者として大切にされている理念や考え方についてお聞かせください。

当クリニックは、「働く若い世代」をメインターゲットにしています。そのため、クリニックにしかできないこと、それは患者様の「スキマ時間」を有効に使える質の高い医療を提供することだと考えています。 また、経営者として特に大切にしているのは、スタッフが働きやすい環境を作ることです。実は私自身がシングルファーザーでして、子育ての大変さを理解しています。そのため、当クリニックでは、私と同じようにシングルマザー・ファーザーの方や、子育て中の方を積極的に採用しています。

なぜ子育て中の方を積極的に雇用されているのでしょうか?

子育て中の方は、大きな病院などでは時間の制約から働きにくいという現実があります。しかし、そういった方々は能力が高い方が多いんです。子育て休暇や、急な子供の病気にも対応できるよう、常にスタッフに余裕を持たせて(バッファを持たせて)人員を配置しています。スタッフを大切にし、安心して働ける環境を提供することが、結果的に質の高い医療サービスにつながると考えています。

2〜3年後のクリニックのビジョンについてお聞かせください。

まずは、もう一人医師を雇い入れたいと考えています。現在、診察室がもう一つあるのですが、物置状態になっていますので、ここを改装し、来年度中には非常勤の医師を雇い入れたいですね。 また、現在は3社ほど産業医をしていますが、今後はさらに増やしていきたいと思っています。産業医を増やすことで、健康診断や二次検診、予防接種などの需要も増え、結果的にクリニックの収益にもつながると考えています。

その非常に高いと言われる医師の非常勤給与(時間給1万円など)を払うのは大変ではないですか?

確かに非常勤の時給は高いですが、「いい人」に来てもらうためにはそれに見合った対価が必要です。しかし、正職員として医師を雇うとなると、年収1,300万円〜1,500万円ほどが必要となり、さらに社会保険料などの負担も増えます。非常勤で週に1回、4時間だけ働いてもらうことであれば、コストを抑えつつ、足りないリソースを補うことができると考えています。

最後に、これから開業を目指す医師や、同じような境遇の医師に向けて、メッセージをお願いします。

これから開業される方には、「初期投資は少なく、借りられるお金はできるだけ多く借りる」ことをお勧めします。私の場合は、継承時に銀行から5,000万円〜6,000万円ほど借りましたが、心に余裕が生まれます。 また、「お金をかけずにチャレンジできることは何でも試す」ことが大切です。特に、患者数を増やすことと客単価を増やすことの二軸で経営を考える必要があります。当クリニックでは、ブランドイメージを意識し、少しだけ客単価を上げる戦略をとってきました。 失敗を恐れず、お金をかけずにできる改善や集患策は積極的に行うことが、開業後の赤字から脱却し、安定したクリニック経営を実現する鍵だと思います。

Profile

院長 小野 渉

小野百合内科クリニック 院長の小野 渉先生は、ご両親が医師という環境で育ち、ご自身の病気の経験から医師を志す。専門は糖尿病、生活習慣病、甲状腺・内分泌疾患。平成26年に弘前大学を卒業後、国立病院機構 北海道医療センター(平成26年〜28年)、釧路赤十字病院(平成28年〜29年)、苫小牧市立病院(平成29年〜30年)で研鑽を積む。その後、北海道大学病院第2内科(糖尿病・内分泌グループ)での勤務(平成30年〜令和4年)を経て、令和4年に小野百合内科クリニックを継承し、院長に就任。最愛の母親から受け継いだクリニック名を大切に、地域に不可欠な医療機関として、質の高い医療の提供と、従業員が働きやすい環境づくりに情熱を注いでいます。

会社情報

医院名

小野百合内科クリニック

設立

2022年