医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
一に辛抱、二に辛抱、三四がなくて五に辛抱」医療に携わる者が持つべき揺るぎない覚悟と矜持
三枝デンタルオフィス
理事長 三枝 尚登
今回は、香川県高松市にクリニックを構える三枝デンタルオフィスの三枝 尚登 理事長にお話を伺いました。三枝デンタルオフィスは、患者様一人ひとりの「本当に治したい」という思いに真摯に向き合い、妥協のない最高水準の自由診療を提供し続けるクリニックとして、全国から多くの患者様が訪れています。その根底にあるのは、三枝先生が長きにわたり追求し続けている「医療の本質」と「プロフェッショナルとしての誇り」です。 三枝先生は、ご自身の信念を貫くことで数々の困難を乗り越え、唯一無二の歯科医療を確立されました。その揺るぎない覚悟と、医療人としての熱い思いは、多くの現役医師や未来の医師の心に響くことでしょう。開業から現在に至るまでの道のり、そして先生が考える歯科医師としての在り方について、深掘りしてお話を伺いたいと思います。
—さっそくですが、先生が歯科医師を志されたきっかけについてお聞かせください。
私が歯科医師を志したきっかけには、最も尊敬していた叔父の存在があります。叔父は海軍兵学校を卒業し、戦艦「大和」の沖縄特攻から生還した人物でした。戦後は「人を殺める軍人から、命を授かる産科医へ」と人生の方向を大きく転じ、その生き方に深い感銘を受けました。私が叔父に「跡を継ぎたい」と申し出た際、叔父は「産科医は命を授かる仕事である一方、中絶手術という矛盾も抱えている。お前にはそのような苦しみを味わわせたくない」と言いました。その言葉を胸に、私は自らの手先の器用さを生かせる医療の道を探し、歯科医師という職業を選びました。
—開業は、勤務医として経験を積まれてからでしょうか?
私は大学病院でしか働いた経験がありません。経営を考慮した診療を行わなければならない開業医勤務の経営が無いのです。それが幸かデメリットになったのかは判りませんが、経営重視の診療体系は医療の本質から逸脱すると考えています。誠実な治療は、必ず患者さんに伝わるものです。
—開業された際、保険診療に頼らない自由診療でのスタートと聞きました。想像を絶するご苦労があったのではないでしょうか?
おっしゃる通り、苦労の連続でした。開業場所が四国でしたから、当時は周囲から『何を夢みたいなことを言っているんだ』と(笑)。歯科材料業者や機器業者も、物が売れないと見て相手にしてくれませんでした。しかも、開業した年の12月には、借り入れも含めて資金が尽きてしまいました。ある意味、背水の陣を敷いたわけです。
—そのような極限の状態を、どのように乗り越えられたのですか?
ピンチはチャンス、とはよく言ったものです。まさにその状況で、あるご縁がありました。著名な企業の奥様が私のクリニックを訪ねてくださり、治療を依頼されたのです。治療費とは別に『先生、治療には手付金がいるでしょう』と、当時で300万円という大金を置いていってくださったんです。その奥様の信頼が、私を助けてくれました。そのご縁から、患者さんが患者さんを呼び、紹介の輪が広がっていったのです。自分の仕事にやましいことがなければ、前を向けばいい。この経験が、私を強くしてくれました。
—様々なご経験を経て、先生が考える歯科医師としての「矜持(プライド)」や「倫理観」についてお聞かせください。
医療職は、命に関わる仕事をしているという責任感と覚悟が何よりも大切です。今の歯科業界は、コンサルタントやSNS活用など、ビジネスの側面が重視され、医療の専門性がおろそかになっているように感じます。しかし、新しい技術も10年後には10%も残っていません。私たちは職人として、手を動かし、学び続けることを忘れてはいけません。
—先生にとって、保険診療と自由診療の線引きはどのようにお考えですか?
保険でやっていけないなら、保険医の資格を返せばいいんです。健康保険は、国家と国民のためにある大切な制度です。それを『食べられないから』と、不誠実な形で利用してはいけない。私は保険診療を嫌い、自由診療を選びましたが、患者さんの口腔内を預かる以上、費用、時間、そして人生の全てに責任を負うべきです。だからこそ、安易な妥協を許さない。これが、真の歯科医師の態度だと考えています。
—先生の仕事に対する情熱はどこから湧いてくるのでしょうか?
私は歯科医師の仕事が好きですから、好きなことで生計を立てていけることは、本当に幸せだと感じています。多くの人が生活のために仕事をしていますが、私は好きで仕事をする。そういった意味では、私は非常に恵まれた人間だと思います。しかも、治療を通して患者さんが健康になり、『ありがとう』と言ってくださる。これ以上の喜びはありませんね。
—患者さんとの関係性で、特に大切にされていることはありますか?
患者さんは、私を『最後の砦』として頼って来てくださいます。だから、私は決して裏切らない。患者さんには正直でありたいと思っています。正直に話すと、人間関係もそうですが、裏で足を引っ張ろうとする者が必ず現れます。しかし、私は『患者さんとの絆』があるからこそ、やましいことはない、と堂々としていられるのです
—先生のクリニックは今後、どのような未来を描いていますか?
私は時代に左右されない歯科医院でありたいと願っています。世の中には変わっていいものと、変わってはいけないものがあります。私は『歯の宮大工』として、技術の根幹を極めたい。宮大工の仕事は、1000年経っても変わらない。三枝デンタルオフィスに来れば、歯科医療の原点が学べる、揺るぎない技術がある。そう思ってもらえるクリニックであり続けることが、私の目指す「夢」です。
—最後に、これから開業を志す若い先生方や、同じように悩む先生方へメッセージをお願いします。
これだけは忘れないでください。一に辛抱、二に辛抱、三四がなくて五に辛抱です。そして継続をすること。今の若い先生方には、技術と知識はあっても、精神的な辛抱強さが足りないように見えます。安易な方法に逃げず、真摯に自分の仕事と向き合ってください。遊びの時間なんてないほど、研鑽に励むべきです。そうすれば、お金は後から必ずついてくるものです。あなたの覚悟が、患者さんからの信頼を生むのです。
Profile
理事長 三枝 尚登
三枝デンタルオフィスの理事長、三枝 尚登(さえぐさ ひさと)先生は、1988年にノーベルファルマ社(現.ノーベルバイオケア社)公認インストラクターに就任後、2003年にはスウェーデン・アストラテック社のアストラテックインプラント公認インストラクターを務めるなど、世界の最先端技術を日本に導入・普及させたパイオニアの一人です。2013年からは日本歯科大学の非常勤講師、そして2018年からは日本歯科大学 総合診療科 臨床教授として、次世代の歯科医師育成にも尽力されています。現在は日本総合歯科診療研修センター長も務めており、その教育理念は「医療に携わる者は、患者様の健康と命を預かる責任の重さを自覚し、常に自己を磨き続けるべき」という強い信念に基づいています。技術の研鑽はもちろん、医療人としての倫理観と覚悟を持つことの重要性を説き、三枝デンタルオフィスにて実践されています。