医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
SAKU DENTAL CLINIC 櫻井恵中院長が語る、継承開業と小児口腔発達への想い
SAKU DENTAL CLINIC
院長 桜井 恵中
習志野市・津田沼駅前にあるSAKU DENTAL CLINICは、地域に根ざした診療を大切にしながら、子どもから大人まで幅広い世代のお口の健康をサポートしています。院長の櫻井恵中先生は、ご家族との関わりや勤務医としての経験を経て、お父さまの医院を継承されました。 現在は小児の口腔発達にも専門的に取り組み、院内の働きやすさやチームとしての医療のかたちにも強いこだわりを持たれています。 診療でも経営でも“人を大切にすること”を軸に据える櫻井先生に、これまでの歩みとこれからの展望についてお話を伺いました。
—まずは歯科医師になろうと思ったきっかけを教えていただけますか?
実は父が歯科医師だったんですが、最初からこの道を志していたわけではないんです。中学生の頃に「パッチ・アダムス」という映画を観て、無料診療所で人のために尽くす姿を見て強く胸を打たれました。そのときに父から「そういうふうに考えられる人こそ、医療に向いてるんじゃないか?」と言われて。感謝してもらえる仕事って意外と少ないんですよね。それで、徐々に医療という世界への見方が変わっていきました。
—開業の経緯についてもお聞かせください。
父が高齢になってきたこともあり、いずれは継承という選択肢が現実味を帯びてきました。もともと歯科医師になったからには、いつかは自分のクリニックを持ちたいという思いもありましたし、11年間、常勤で勤めた勤務医生活もちょうど節目でした。タイミングとしても自然だったと思います。
—継承の裏側には、ご家族とのやりとりもあったと伺いました。
はい、実はもともと兄が父の医院を継ぐ予定だったんです。僕はその間、非常勤としてサポートに入っていたんですが、兄と父の間を取り持つような立場になることもあって…。最終的には兄が別の場所で開業することになり、自分がここを継ぐことになりました。兄とは今も仲がいいですし、それぞれが自分に合った道を選んだ結果ですね。
—先生は、小児の口腔発達にも注力されているそうですね。
はい、現在は「日本小児口腔発達学会」の理事も務めており、小児の口腔機能、顎骨の成長、歯並びなど、成長と機能に関する分野を専門に診ています。成人の治療とは異なり、子ども一人ひとりの発達に応じた視点が求められるので、その点を大切にしながら診療にあたっています。
—診療の中で、特に意識されていることは何でしょうか?
病院に来られる方って、何かしらネガティブな気持ちを抱えている方が多いと思うんです。ですから、治療はもちろんのこと、気持ちの部分にも寄り添いたいと考えています。患者さんが帰る頃には、少しでもモヤモヤや不安が晴れていたらいいなと。たった一つでも悩みを軽くできたなら、それだけで意味のある時間だったと思えるような診療を心がけています。
— 継承開業とのことですが、開業後に苦労されたことはありましたか?
完全な新規開業ではなく継承でしたので、ゼロからの集患といった面では苦労は少なかったです。ただ、内装を全改装するために2ヶ月ほどクリニックを閉じた時期がありまして。その影響で、患者さんが戻ってくるまで少し時間がかかりましたね。駅前という好立地ではありますが、新規の方に知っていただくにはやはり時間と工夫が必要で、広告をあまり出さなかったぶん、スタートは静かでした。新規開業だったらちょっと焦っていたかもしれません(笑)。
—経営理念についてお聞かせください。
経営をするうえで一番大切にしているのは、スタッフが健康であることです。僕たちは「健康を提供する側」ですが、まずは自分たちが健やかでなければ、患者さんを健康に導けないと思うんです。ですので、有給の取得率はほぼ100%、残業もほとんどありません。スタッフが安心して働ける環境を整えることが、結果として患者さんの満足度にもつながると考えています。
—経営における数字や戦略についてのスタンスは?
あまり数字ばかりを追いすぎると、院内の雰囲気にも良くない影響が出ると思っていて。もちろん最低限の把握は必要ですが、利益を追うよりも“無駄な出費を抑える”ことのほうに意識が向いています。採用コストや離職によるロスって実はすごく大きいので、まずはスタッフが辞めない環境を整えることが最大の戦略じゃないかと思っています。
—今後、2〜3年の展望や目標があれば教えてください。
開業して3年目に入りましたが、今後は僕が理事を務める小児の専門分野を、もっと地域に根付かせていきたいと考えています。歯科だけでなく、医科や多職種との連携を強めていって、地域全体でお子さんの成長を見守るような体制をつくれたら理想ですね。医療機関としてだけでなく、地域の健康や育ちを支える存在になれたら嬉しいです。
—最近導入して良かったと感じている設備や取り組みはありますか?
デジタルサイネージを導入していて、すごく助かっています。紙をたくさん貼ると院内が雑多になりがちですが、デジタルで情報を発信することで空間もすっきりしますし、オリジナルのコンテンツも自由に作れるので、患者さんへの情報提供にも、院内スタッフの研修にも使えます。柔軟に対応してもらえるのもありがたいですね。
—これから開業を目指す先生方へ、アドバイスがあればお願いします。
一番大事にしてほしいのは「自分の規模感を見誤らないこと」ですね。勤務医として売上の高いクリニックで働いていると、感覚が麻痺しやすいんです。設備もスタッフも患者さんも揃っていて、それが当たり前だと思ってしまう。でも、いざ自分が開業すると「えっ、こんなに大変だったの!?」っていうギャップに直面することになります。 機材一つとっても、良いものを揃えれば当然コストがかかります。でも最近は安価でも性能の良い機器が増えていますし、開業は“ミニマムスタート”が鉄則だと思います。長く勤務していても、見えていない部分は意外と多いので、情報収集は怠らないようにしてほしいですね。
—開業してよかったと感じるのは、どんな瞬間でしょうか?
やっぱり、自分で時間をコントロールできるということですね。勤務医の頃は、とにかく仕事に追われていた時期もありました。今は診療以外の時間、例えば家族との時間や休暇も自分でつくれるので、そういう意味では開業して本当によかったなと感じています。
—最後に、先生ご自身の夢を教えていただけますか?
実は沖縄が大好きでして(笑)、いつかは移住したいと思っています。現実的には、まずは二拠点生活からですね。10年〜15年後を目処に、診療と並行して段階的に移行していけたら…最終的には完全移住も夢じゃないかなと。まぁ、そのためにはまだまだ頑張らなきゃいけないことだらけですけど(笑)。
Profile
院長 桜井 恵中
インタビュー中、終始穏やかな語り口ながらも、ひとつひとつの言葉にしっかりとした信念を感じました。 「スタッフが健やかでいてこそ、患者さんに良い医療を届けられる」というお考えの通り、先生の視線は常に人に向いています。 小児の成長を地域全体で見守れるような取り組みや、多職種との連携に向けた構想など、未来を見据えたビジョンも印象的でした。 歯科医療を通して誰かの健康を支えたいという思いを、これからもまっすぐに、丁寧に、届けていかれるのだと感じました。