地域医療への貢献を目指す–浜松歯科 中野 陽平 院長の経営と情熱
2026.02.17
心と身体に寄り添う医療。効率よりも「良心」を選んだ、さくらひだまり訪問クリニック・加藤久普院長の飽くなき挑戦
さくらひだまり訪問クリニック
院長 加藤 久普
東京都北区赤羽西に位置する「さくらひだまり訪問クリニック」。ここでは、通院が困難な患者さまや、お布団から起き上がることが難しい方々のもとへ直接医師が赴き、心身の両面から温かくサポートする訪問診療を行っています。今回は、同クリニックを開設された院長の加藤久普先生にインタビューを実施。東大理学部、名大医学部を経て、精神科や内科の訪問診療で豊富な経験を積まれてきた加藤先生が、なぜ今、北区の地で独自のクリニックを立ち上げたのか。そこにかける並々ならぬ医療への思いと、患者さま一人ひとりに寄り添う誠実な姿勢に迫りました。
—先生は東京大学理学部を卒業された後、改めて名古屋大学医学部で医学を修められました。医師を志したきっかけを教えていただけますか。
元々は東大に通っていたのですが、将来をどうしようかと考えていく中で「やはり人の役に立てる仕事がしたい」という想いが強く湧いてきました。そんな折、自分の大切な友人が自ら命を絶って亡くなってしまうという、非常に悲しい出来事があったのです。当時は自分に何もできなかったという強い無力感と悔しさがありました。その経験から、人の命や人生、そして健康に直接的に関わることができる医療の世界、特に精神のケアに深く携わりたいと思うようになり、医学部への再受験を決意しました。
—その後、精神科医としてのキャリアの中で、なぜ「訪問診療」に惹かれていったのでしょうか。
慶應義塾大学や都立松沢病院などの精神科、あるいは内科の病院で勤務を重ねる中で、次第に在宅医療、つまり「訪問診療」に携わる機会が増えていきました。病院の中で待っているだけでは出会えない、生活の現場に直接入り込んでいく医療を経験した時、これがものすごく自分の性に合っているな、と感じたんです。病気だけを診るのではなく、その人がどんな部屋で、どんな風に暮らしているのかという「生活」そのものを支えられる点に、非常に大きな魅力を感じました。
—「生活そのものを支える」という点において、病院での診療と訪問診療では、具体的にどのような違いを感じますか。
一番の違いは、患者さまがリラックスしている「いつもの環境」で診察ができる点ですね。白い巨塔のような病院の診察室だと、患者さまも緊張して本音を話しづらいものですが、ご自宅の布団の上やリビングであれば、本当に困っていることや、これまでの人生の物語を自然と打ち明けてくださいます。心身の両面からじっくり向き合う上で、訪問診療という形は理想的だと確信しています。
—多くの訪問診療クリニックで経験を積まれた先生が、今回「さくらひだまり訪問クリニック」を自ら開設された理由を教えてください。
様々な勤務医を経験する中で、世の中の医療機関には、どうしても効率や利益、数字的な拡大を最優先せざるを得ない「営利目的」の色が強く出てしまっているところも少なくない、という現実に直面しました。そうした環境だと、本当に時間をかけて手厚いケアが必要な患者さまが、どうしてもこぼれ落ちてしまい、不遇な思いをしてしまうことがあります。
—医療の現場でも、ビジネスとしての効率が優先されてしまうことがあるのですね。
ええ。もちろん経営も大切ですが、私は「ここに相談すれば、絶対に安心して良心的な医療が受けられる」と胸を張って言える場所を、自分の手で作りたかったのです。商業主義に走るのではなく、純粋に目の前の患者さまのためになる医療を実践するために、自分の理念を100%反映できるクリニックを開設しました。
—クリニック名にある「さくらひだまり」という言葉にも、そうした想いが込められているのでしょうか。
はい。病気や障害によって、お布団から起き上がることすらできず、孤独や不安を抱えている患者さまが地域にはたくさんいらっしゃいます。そうした方々のもとへ私たちが伺うことで、まるでお部屋にぽかぽかと暖かい「ひだまり」が差し込むような、そんな安心感をお届けしたい。患者さまやそのご家族の心をふっと軽くできる存在でありたい、という願いを込めて名付けました。
—訪問診療を利用される患者さまは、普段どのような状況にいらっしゃる方が多いのでしょうか。
外来診療であれば、ご自身で歩いて通院できる方が主ですが、訪問診療を必要とされる方は、外に出ること自体が困難な方がほとんどです。中には、本当にお布団の上から一歩も起き上がれないような、深刻な状況にいらっしゃる方も多くいます。
—医療を最も必要としている重症な方ほど、自力で病院にアクセスできないというパラドックスがあるのですね。
まさにその通りです。自分自身の足で医療にアクセスできない方々に対して、こちらから手を差し伸べに行かなければ、その方々は社会から孤立してしまいます。精神科と内科の両面からアプローチすることで、お布団から出られなかった患者さまが、少しずつお部屋の中で笑顔を見せてくれるようになり、やがて「外に出てみようかな」と思えるまで回復されることもあります。
—先生がご自宅に行くこと自体が、社会との大切な繋がりになっているのですね。
そう言っていただけると嬉しいです。お話をじっくり伺うことで、患者さまだけでなく、日々介護で疲弊されているご家族の心の負担も減らすことができます。訪問診療は、患者さまとご家族の「生活の質」を底上げするための医療の最前線だと日々実感しています。
—開業されてからこれまでを振り返って、特に苦労されたことや印象に残っていることはありますか。
勤務医の時は診察室で患者さまを待っていればよかったのですが、開業の準備から現在までは、本当に「想像を絶する大変さ」でした。やるべきタスクが無限にあって、経営やスタッフの教育など、医療以外の仕事の多さに圧倒される日々です。ただ、幸いなことに、以前の職場で一緒だった信頼できる仲間がついてきてくれたり、新しく入ってくれた方も素晴らしい人ばかりで、人とのご縁には本当に救われています。
—先生の誠実なお人柄が、素晴らしいチームを引き寄せたのですね。今後、先生が思い描く3年後、5年後のビジョンを教えてください。
私が医師として、直接深く向き合える患者さまの数は、物理的に100人ほどが限界です。今後、もしクリニックの規模が大きくなっていったとしても、この「一人ひとりとじっくり向き合う」という初心と良心的なカラーだけは、絶対に薄めたくないと思っています。規模の拡大に流されて医療の質を落とすのではなく、地域に深く根を張り、信頼を裏切らない診療を続けていくことが私のブレない目標です。
—最後に、今後同じように志を持って開業を目指す先生方へ、メッセージやアドバイスをお願いします。
勤務医を続けながら開業の準備をするのは本当にエネルギーがいりますし、1人で全てを調べながら進めるのは限界があります。私の経験から言えるのは、自分の理想とする医療の理念をしっかりと持った上で、それをサポートしてくれる良きパートナーや相談できる存在を早く見つけることが、とても大切だということです。
Profile
院長 加藤 久普
さくらひだまり訪問クリニック 院長。東京大学理学部を卒業後、名古屋大学医学部へ進学・卒業。羽島市民病院にて内科、皮膚科、整形外科、救急救命科の研鑽を積む。その後、慶應義塾大学精神・神経科学教室に入局し助教を務め、精神科の権威である樋口輝彦氏に師事、鶴ヶ丘ガーデンホスピタルや慶應義塾大学病院、都立松沢病院などの精神科にて多くの患者さまと向き合う。さらに、ふたば在宅クリニック(精神科訪問診療)、ひかりクリニック、みらい在宅クリニック(内科訪問診療)で在宅医療の現場を深く経験し、東京都北区に「さくらひだまり訪問クリニック」を開設。精神科・内科の両面から地域に根ざした誠実な訪問診療を展開している。