こころに寄り添い続ける医療を–こころサポートクリニック 平山 貴敏 院長インタビュー
2025.10.29
地域に根差し、患者様とじっくり向き合う医療を目指して
しおで循環器内科クリニック
院長 塩出 宣雄
広島市中区幟町に2025年9月に開設された「しおで循環器内科クリニック」は、循環器疾患の専門医である塩出 宣雄(しおで のぶお)先生が、長年の経験と知識を地域医療に還元するために立ち上げたクリニックです。塩出先生は、広島大学医学部を卒業後、地域の基幹病院で長きにわたり心臓病の救急医療と最先端治療に携わってこられました。多忙な急性期医療の現場で培った高い専門性と技術を持ちながらも、患者様一人ひとりと向き合う時間の大切さを痛感し、開業という新たな道を選択されました。この記事では、塩出先生が医師を志したきっかけから、これまでのキャリアで経験されたこと、そして「しおで循環器内科クリニック」が目指す地域医療のビジョンについて、詳しくお話を伺います。
—まずは、塩出先生が医師を志されたきっかけについてお聞かせいただけますか?
子どもの頃にさかのぼる話になりますが、小学生の頃に虫垂炎(盲腸)の手術をしたり、骨折をしたり、交通事故でむち打ちになったりと、幼少期に何度も病院にお世話になる経験がありました。当時は親戚に医師がいなかったのですが、母から「家族に一人でも医師がいたら良いね」と言われたことが、この道を目指す大きなきっかけになったと記憶しています。
—長いご経験の中で、「循環器内科」という専門分野を選ばれた理由は何でしょうか?
私の専門は循環器内科の中でも、特に虚血性心疾患です。これは狭心症や心筋梗塞といった、心臓の血管が詰まったり狭くなったりする病気のことです。勤務医時代は、これらの病気に対する検査や治療、特に救急医療(急性期医療)をメインに担当していました。
—勤務医として約40年間務められた後、開業を決意されたきっかけを教えてください。
いつかは開業したいという気持ちは以前から持っていましたが、定年を過ぎて体力的に急性期医療を続けるのが厳しくなってきたということもあります。また、急性期病院での治療は、大病院と地域のクリニックが役割を分担しています。大病院で高度な検査や治療を終えた後の、長期的なフォローアップは地域のクリニックが担うため、その受け皿となる「かかりつけ医」として地域医療に貢献したいと考え、63歳で開業に至りました。
—勤務医時代と開業医である現在とで、診療に対するポリシーや患者様と向き合う姿勢に変化はありましたか?
虚血性心疾患をはじめとする心臓病は、再発を繰り返すことで心臓が弱り、命に関わる疾患です。勤務医時代は、忙しさから外来で患者様とじっくり向き合う時間がなかなか取れませんでした。しかし、開業してからは患者様一人ひとりに時間をかけて丁寧に向き合えるようになりました。
—開業されてから、患者様との関わりで特に印象的なエピソードはありますか?
先日、かつて大病院で診ていた患者様が「しおで循環器内科クリニック」に来てくださったんです。その方が帰り際に「先生が笑っている顔を見たのは初めてだ」と言ってくださったんです。その一言で、いかに私が以前、時間がない中で焦りや苛立ちを感じながら診療していたかを痛感しました。今は時間を使えるようになり、ゆっくり話ができる状況になったので、こうして患者様と新たな関係を築けていることに喜びを感じています。
—診療される上で、特に意識していることや注意している点はありますか?
心臓病は再発を繰り返す病気ですから、外来で患者様をきっちりと診察し、病気の見落としがないように努めることが重要です。このポリシーは、何年経っても変えることなく持ち続けたいと思っています。
—開業されるまでの道のりで、苦労されたエピソードがあれば教えてください。
緊急性の高い循環器診療はチームで行うため、チームの責任者になると、下のドクターを育てながら、同時に難しい治療の判断やアドバイスも行わなければなりません。そのため、チームからなかなか離れられず、私自身が独立して開業するタイミングを掴むのが難しかったという苦労もありました。若手の先生が育つまで、開業に踏み切れなかったという側面もあります。
—開業にあたってどのように準備を進められましたか?
銀行からの融資を受けることなど、経営に関しては全くの素人でしたので、信頼できる方を見つけ、様々な専門家の方々のアドバイスを真摯に聞きながら準備を進めました。例えば、機器の会社の方々のアドバイスを受けて必要な機器を購入したり、製薬会社の方のアドバイスを受けて開業場所を決めたりといった具合です。もちろん、自分の意見も持ちつつ、外部の知恵も借りるという形で進めました。
—クリニックの経営理念や、経営者として大切にしている考え方を教えていただけますか?
建前としては、患者様にじっくり向き合えるような医療を提供したいという思いがあります。ただ、やはり事業として成り立つ必要がありますので、潰れないようにしなければなりません。経営は素人ですが、ある程度の経営努力はしつつ、「患者様とじっくり向き合う医療」という理想とのジレンマを解消しながら運営していきたいと考えています。
—今後2〜3年で、しおで循環器内科クリニックをどのようなクリニックにしていきたいとお考えですか?
2〜3年後には今よりも患者様が増えて忙しくなるかもしれませんが、どんなに忙しくなっても、患者様とじっくり向き合って話ができるクリニックを目指したいと思っています。また、これまで診てきた患者様や、これから出会う患者様を、できる限り最後まで長く見守り続けたいというのも、私の大きな目標の一つです。
—これから開業を目指す後輩の医師たちへ、アドバイスをお願いいたします。
今は開業しても収益を上げることが難しい、厳しい時代になりつつあります。医師は専門的な知識はあっても、経営に関しては素人であることが多いです。信頼できる方を見つけ、いろいろな人のアドバイスを真摯に聞きながら事業を進めていくことが、成功には必要だと思います。
—開業にあたり、「これをやっておいて良かった」という具体的な準備や施策はありますか?
収益にならない高額な医療機器を導入しても、経営が苦しくなるだけですので、必要最低限の機器に絞って導入したことは良かったと思います。循環器内科として必要な心電図や心臓のエコー検査機器があれば、ある程度の診療は可能です。
—WebやSNSなど、集患のための取り組みについてはいかがでしょうか?
ホームページにInstagramを追加したり、地域の門前薬局にティッシュペーパーを配布したりといった、広報活動も大事だと感じています。待っているだけでは患者さんは来られないので、少しでも知っていただくための宣伝は重要です。
—医師としての今後の「夢」や「目標」があれば教えてください。
個人のクリニックでは、大病院のように大きな検査や手術はできません。できることは限られていますが、その中で、患者様にとって最善の医療を提供したいと考えています。そのためには、患者様をきっちりと診察し、病気の見落としがないように努めることが重要です。このポリシーは、何年経っても変えることなく持ち続けたいと思っています。
Profile
院長 塩出 宣雄
しおで循環器内科クリニック院長。1987年に広島大学医学部医学科を卒業。その後、広島大学医学部附属病院での研修を経て、松江赤十字病院、小倉記念病院、土谷総合病院、広島市民病院といった、地域の急性期医療を担う主要な病院で、循環器内科医として30年以上にわたりキャリアを積まれました。特に虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の診断とカテーテル治療を専門とし、救急医療の最前線で多くの命を救うことに尽力。2025年9月には、これまで培った高度な専門知識と豊富な臨床経験を活かし、患者様一人ひとりに寄り添う医療を実現するため、広島市中区幟町に「しおで循環器内科クリニック」を開設されました。