—さっそくですが、医師を志すことになったきっかけを教えていただけますか？

幼少期に病気をした際にお世話になった先生がいたことが、医師を志す最初のきっかけになりました。特に小学校5年生頃に入院・手術を経験したことから、「医師になりたい」「子どもに携わる医師になりたい」という思いが強くなりました。

—開業地に茨城県神栖市を選ばれたのは、どのような背景があったのでしょうか？

大学病院の医局からの派遣で、この地域にある病院に派遣されたのがきっかけです。茨城県は医師数が全国的に見ても少ない地域で、私が開業した地域は、その茨城県の中でも住民に対する医師数が最も少ない場所でした。小児科医も数えるほどしかいない、厳しい環境だったのです。

—厳しい医療体制の中で、開業を決意された理由は何だったのでしょうか？

病院勤務時代は夜間救急なども非常に忙しく、このままでは大学病院から派遣されている若手の先生たちが疲弊し、潰れてしまうのではないかという危機感がありました。そこで、私が地域で小児の一次診療を担うクリニックを開業すれば、彼らの負担を軽減できるのではないかと考えたこと、そしてそのことが地域貢献に繋がれば、という思いが開業の最も大きな理由になりました。

—診療の際に、患者さんや親御さんに対して意識されていることはありますか？

私たちの患者はお子さんですが、説明をするのは親御さんなので、親御さんに分かりやすく説明することを常に心がけています。また、小児科ならではですが、子どもが病院を怖がらないように、という配慮も重要です。例えば、以前の勤務先でも「白衣は子どもが怖がって泣くからダメだ」という考えがあり、私もその考えには大いに賛同し研修医の頃から白衣はほとんど着ていません。パーカーやスクラブで診療するようにしています。

—庄野先生の経営におけるモットーや、大事にされている言葉はありますか？

好きな言葉は「不断前進（ふだんぜんしん）」です。これは元々、私が医学を学んだ順天堂大学の理念の一つでもあったのですが、「歩みを止めない」という意味です。現状維持は後退でしかないので、常に新しいことに挑戦し続けようと思っています。

—先生のクリニックではスタッフの数が多い印象ですが、人材の採用や育成で意識されていることはありますか？

当院のスタッフは、以前私と一緒に働いてきたメンバーが多いので、私の考えや人となりをある程度理解してくれています。育成においては特別なことはしていませんが、風通しが良い、意見を言いやすい空気感を大切にしています。採用については、地域の親和性が高いハローワークなどを中心に募集をかけています。

—開業されてから今日までで、特に「最も苦労した」と感じることは何ですか？

当院は土地や建物から全て一から作ったため、ポストコロナの時代にどうやって感染症隔離をしようか、患者さんやスタッフの動線はどうしようかなど、クリニックの作りについてはかなり気を使いました。建築業者と30回以上打ち合わせて、やっと今の理想形ができたと思っています。借入資金も多かったので銀行との打ち合わせもかなりの回数になりました。

—現在は個人から法人化もされていますが、早く法人化された理由は何ですか？

開業後、わずか3年弱で法人化しました。早く法人化したかったのは、医療法人となると社会的信用度も出てきて、もっと地域の皆様に知ってもらえると思ったからです。また、医療法人として可能な限り子どもに有益なサービスを整えていければと考えています。

—開業を考えている先生方へ、特に「これはやっておいた方がいい」というアドバイスはありますか？

経営的な観点から言うと、FP（ファイナンシャル・プランナー）の資格を取るなどして、PL（損益計算書）やBS（貸借対照表）といった経営の数字が読めるようになっておくことは、非常に役立つと思います。私もFPの資格を持っているので、税理士との話がスムーズに進みます。簿記などでも何でも良いので、経営の基礎知識を学んでおくことをおすすめします。あとは「何のために開業するのか」という確固たる信念をもって開業されると、自身がブレないのでメンタル的にも強くいられます。

—最近導入して「これは良かった」と感じるシステムやサービスはありますか？

音声認識による自動カルテ作成ソフトですね。私が患者さんと話した内容を自動で全て音声入力し、かつ自分の好きな形式のカルテに要約してくれるんです。これにより、診療後にカルテを作成する時間が大幅に減り、以前は3〜4時間かかっていた作業が、今では1時間かからずに終わるようになりました。

—診療以外で、患者さんとの関わりの中で「幸せだ」と感じる瞬間はどんな時ですか？

やはり、患者さんが良くなってくれることが一番嬉しいですね。他の病院で治療がうまくいかなかったお子さんが来院され、「一気に良くなりました！」と言っていただけると、小児科専門医、地域のかかりつけ医としてやりがいを感じます。また、ごくたまにですが、子どもたちが「先生と一緒に働きたい」「お医者さんになりたい」と言ってくれた時も、すごく嬉しく、小児科医冥利に尽きる瞬間です。

—今後の2〜3年間で、クリニックのビジョンや挑戦したい事業についてお聞かせください。

今は診療に割く時間が限界に近づいているため、今後は自分の右腕となる医師を迎え、さらに患者さんを受け入れていきたいです。できれば分院展開などもしていきたいですね。

—新たな事業として、具体的に検討されていることはありますか？

はい、自治体の補助金なども活用しながら、病児・病後児保育など、子どもに関する他の事業にも展開していきたいです。子どもが病気になっても親御さんが働きやすい環境を作るため、クリニックの活動を起点に、医療という面から地域の子育て環境をサポートできる体制を整えたいと思っています。

—最終的な、庄野先生にとっての「夢」とは何でしょうか？

小さな夢かもしれませんが、地域の全ての子どもたちとそのご家族が、医療的に安心して暮らせるようにすることです。病児・病後児保育や入院施設も含めてですが、地域のほとんどの子どもたちがクリニック診療で、一部の重症なお子さんはスムーズに高次医療機関に連携できる、そのような体制構築も含めて自治体とも協議を図っていきたいと思っています。