腎臓病の進行を防ぎ、地域の健康寿命を支えたい–「たがやクリニック」多賀谷 知輝 院長インタビュー
2025.12.22
腎臓内科の専門医が目指す、地域に根ざした「全身管理」と「早期予防」の医療
たがやクリニック
院長 多賀谷 知輝
愛知県日進市に2025年5月に開院した「たがやクリニック」。地域のかかりつけ医として、内科全般から専門的な腎臓内科、さらには皮膚科まで幅広く対応しています。今回は、院長の多賀谷 知輝(たがや ともき)先生にお話を伺いました。大学病院や基幹病院で長年、腎臓内科医として透析医療の最前線に立たれてきた多賀谷先生。なぜ今、地域医療の道を選ばれたのか。その背景には、「病気が進行する前に食い止めたい」という切実な想いと、生まれ育ったこの土地への愛着がありました。患者様との向き合い方から、今後のビジョンまで、先生の熱い想いに迫ります。
—まずは、多賀谷先生が医師を志した原点について教えていただけますか?
一番のきっかけは、父が医師をしていたことです。幼い頃から、父が地域の方々に頼りにされ、診療している姿を間近で見て育ちました。子供心に「将来は自分もこういう道に進んでいけたらいいな」と、漠然とした憧れを抱いていたんです。 明確に進路として決意したのは高校生の受験期ですが、根底には常に「人の役に立つ仕事がしたい」「父のように地域に貢献したい」という想いがありました。それが、今の医学の道へと繋がっています。
—長く勤務医としてご活躍されましたが、現場でどのような課題を感じていたのでしょうか?
大学病院や市中病院では、主に腎臓内科を専門として診療を行ってきました。そこに来られる患者様の多くは、すでに病気がかなり進行していて、「透析」という腎臓の機能を代替する治療が必要になる段階の方が中心でした。 日々専門医として治療にあたる中で、「もっと手前の段階から関わることはできなかったのだろうか」という思いが常にありました。透析が必要になる前に、もっと早期に介入できていれば、患者様の人生は違ったものになっていたかもしれない。そう強く感じるようになったんです。
—そこから、なぜ「開業」という選択肢を選ばれたのですか?
年齢を重ねてキャリアを積んでいく中で、病院という専門的な枠組みだけでなく、もっと幅広く患者様と関わりたいという気持ちが強くなりました。 今後、専門医としてさらに病院でキャリアを積んでいく道もありましたが、それだとどうしても関われる患者様の層が狭まってしまいます。私はもっと広く、病気が進行する前の「予防」や「生活習慣病の管理」の段階から患者様をサポートしたいと考えました。そうすることで、将来的に重症化する方を一人でも減らせるのではないかと。それが開業を志した一番の理由です。
—開業の地に、この日進市を選ばれた理由をお聞かせください。
実は、ここ日進市は私が生まれ育った土地なんです。子供の頃から慣れ親しんだこの場所で、地域の方々に貢献したいという想いが強くありました。 また、この地域は住宅地も多く、働き盛りの世代からご高齢の方まで幅広い年齢層の方が住んでいらっしゃいます。そういった方々の健康を、一番身近な場所で支えていきたいと考え、この地での開業を決めました。
—来院される患者様は、どのようなお悩みを持たれていることが多いですか?
当院は妻が美容皮膚科を担当しているので、美容の悩みで来院される方も多いですが、内科に関してはやはり生活習慣病のご相談が中心です。 特に、会社の健康診断などで「血圧が高い」「血糖値が高い」、あるいは「腎機能の数値が少し悪い」と指摘された方が来院されます。私の専門が腎臓内科ですので、高血圧や糖尿病といった腎臓病のリスクとなる疾患の管理には特に力を入れています。
—治療を行う上で、先生が特に大切にされていることは何でしょうか?
「薬を出して終わり」にしないことです。生活習慣病や慢性腎臓病の治療において、薬はあくまで補助的なものです。土台となるのは、日々の食事と運動です。 しかし、多くのクリニックでは、時間の制約もあって「塩分を控えてください」「運動してください」という一言で終わってしまうことも少なくありません。私は、患者様の生活背景を伺った上で、「なぜこの運動が必要なのか」「具体的にどういった食事を心がけるべきか」といった、生活に密着したアドバイスを行うようにしています。
—腎臓病は「自覚症状がない」と言われますが、どのように患者様へ伝えていますか?
おっしゃる通り、腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり悪化するまで自覚症状がほとんど出ません。クレアチニンやeGFRといった数値が悪くても、患者様ご自身は「痛くも痒くもないから大丈夫だろう」と思ってしまいがちなんです。 実際、数値が透析の一歩手前くらいまで悪化していても、気づいていない方もいらっしゃいます。ですから、診療では「今の数値が何を意味するのか」「放置すると将来どうなる可能性があるのか」を、脅すわけではなく、しっかりと理解していただけるよう丁寧に説明することを心がけています。
—患者様とのコミュニケーションで、どのようなスタンスを意識されていますか?
「上から目線にならないこと」ですね。医師と患者という関係であっても、あくまで人と人との対話です。 何か困ったことがあった時に、「先生に怒られるから相談しにくい」と思われてしまっては意味がありません。「実は食事制限が守れなくて…」といった失敗談も含めて、正直に話していただけるような、話しやすい雰囲気作りを意識しています。クレームのような厳しいお言葉をいただく際も、「本当に困っているからこそ言ってくださっているんだ」と受け止め、真摯に向き合うようにしています。
—開業されて約半年ですが、スタッフ採用やチーム作りはいかがでしたか?
現在は私と妻、そしてスタッフを含めて9名の体制で運営しています。実は開業前、求人を出しても最初は全く応募がなくてですね……(笑)。「これ、本当にオープンできるのかな」と冷や汗をかいた時期もありました。 ですが、最終的には看護師、事務スタッフ含め、非常に優秀で熱意のあるメンバーが集まってくれました。オープン当初は慣れないことも多く大変でしたが、みんなで助け合いながら乗り越えてこれたことで、今はとても良いチームワークができていると自負しています。
—Web予約や自動精算機など、院内システムの導入にも積極的ですね。
はい、Web予約やWEB問診、自動精算機などを積極的に導入しています。これは患者様の待ち時間を減らすというメリットもありますが、スタッフの業務負担を減らすという意味でも非常に大きいです。 私自身、勤務医時代は紙カルテやアナログな業務に時間を取られることも多かったので、開業するなら最初から効率化できる部分はシステムに任せようと決めていました。事務作業を効率化することで、その分、スタッフが患者様への対応やケアに集中できる時間を確保したいと考えています。
—開業当初のエピソードで、特に印象に残っていることはありますか?
やはり5月の開業直後のことですね。この時期は風邪などの感染症も少ない時期ですし、まだクリニックの認知度も低かったので、患者様が全然来ない時間帯がありまして…。 スタッフは揃っているのに待合室は空っぽ、という状況で、「これからどうなるんだろう」と不安になることもありました。逆にその時間を使って、スタッフ同士で業務フローを確認したり、掲示物を作ったりと、準備を整える時間に充てられたのは今となっては良い思い出です。
—勤務医時代と比べて、先生ご自身の働き方に変化はありましたか?
一番の変化は、日曜日や祝日にしっかり休めるようになったことですね。以前の病院勤務時代は、休日でも呼び出しがあったり、回診があったりと、気が休まらないことも多かったです。 今はクリニックの休診日には家族と過ごす時間が持てるようになりました。ただ、平日は経営者としての業務もありますし、おかげさまで多くの患者様に来ていただけるようになった分、診療中はノンストップです。忙しいですが、自分で決めた道ですので充実感はありますね。
—今後のクリニックのビジョンについて教えてください。
まずは、「腎臓のことで困ったら、たがやクリニック」と地域の皆様に認知していただける存在になることが目標です。 2年後、3年後には、日進市で「検診で尿検査の異常が出たら、とりあえずあそこに行こう」と自然と思っていただけるようになりたいですね。早期発見・早期治療の啓蒙活動を続け、地域の皆様が透析にならずに元気に過ごせる期間、いわゆる「健康寿命」を延ばすお手伝いができれば本望です。
—先生ご自身の、個人的な夢や父親としての思いはありますか?
プライベートな話になりますが、私にはまだ小さい子どもがいます。彼が大きくなった時に、「お父さんは地域の人たちを助けていて、かっこいいな」と誇りに思ってもらえるような父親でありたいですね。 仕事が忙しくて家にいない、というだけでなく、「仕事に誇りを持って働いている姿」を背中で見せていきたい。それが一番のモチベーションかもしれません。
—お忙しい毎日かと思いますが、先生ご自身のリフレッシュ法などは?
正直なところ、開業してからは趣味を持つ余裕もなくなってしまって…(笑)。「これではいけない、命を削っているな」と感じることもあります。 患者様に「運動しましょう」と言っている手前、自分も健康的でいなければ説得力がありませんからね。これからは、少し自分のための時間も作って、何かスポーツや趣味を見つけていきたいと思っています。それが結果的に、良い診療を長く続けることにも繋がると思いますので。
—最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
腎臓病は、初期段階では症状がありません。だからこそ、健康診断の結果を軽視しないでください。「少し数値が高いだけだから」と放置せず、一度相談に来ていただければと思います。 早期であればあるほど、打てる手はたくさんあります。食事や運動など、生活の中で無理なくできることから一緒に考えていきましょう。私たちスタッフ一同、皆様の健康を全力でサポートさせていただきますので、どんな些細なことでもお気軽にご相談ください。
Profile
院長 多賀谷 知輝
多賀谷 知輝(たがや ともき)先生は、たがやクリニック院長です。医学博士であり、日本内科学会総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医の資格を持っています。 藤田保健衛生大学(現藤田医科大学)を卒業後、中部ろうさい病院の腎臓・リウマチ・膠原病科にて研鑽を積みました。その後、藤田医科大学病院およびトヨタ記念病院の腎臓内科にて、多くの腎臓病患者様の治療に従事してきました。 その経験の中で、透析に至る前の「保存期」における管理の重要性を痛感し、2025年5月、生まれ育った愛知県日進市にて「たがやクリニック」を開院しました。現在は、妻である美容皮膚科医と共に、地域住民の皆様の健康を支えるべく日々診療にあたっています。