医師を志した原点から、地域に根差すクリニック開業までの歩み
2025.08.01
子どもたちの「今」と「未来」を守り、安心を地域へ届ける
たけつな小児科クリニック
院長 竹綱 庸仁
奈良県生駒市にあるたけつな小児科クリニックは、地域に根差したきめ細やかな医療を提供し、多くの子どもたちとその家族から厚い信頼を寄せられています。院長の竹綱 庸仁先生は、「すべては子どもたちのために」をスローガンに掲げ、一般診療から専門性の高い小児神経・アレルギーまで幅広く対応されています。先生は、クリニックの運営のみならず、病児保育や発達支援、さらには子育て中のご家族が心置きなく利用できるカフェの経営など、多角的な事業展開を通じて、地域全体の子どもたちの健やかな成長を支える環境づくりに情熱を注いでいます。その原動力となっているのは、幼い頃からの医師への想いと、ご家族から受け継いだ小児医療への強い使命感です。今回は、竹綱先生が目指す小児医療の未来、そしてその根底にある信念について、じっくりとお話を伺いました。
—さっそくですが、先生が医師を志されたきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか?
私の祖父が大阪で小児科医をしていたことが、一番のきっかけですね。生まれた瞬間から、医師になることを期待され、そのレールに乗って育ったという感覚があります。幼稚園や小学校の卒業文集でも、将来は小児科医になると書いていたようですし、祖父の背中を見て育ち、その意思を継いで小児科医を目指しました。まさに「初志貫徹」ですね。
—代々受け継がれた小児科医の道を歩まれているのですね。では、大学病院での勤務を経て、ご自身でクリニックを開業しようと思われたのはなぜですか?
元々、開業するつもりは全くありませんでした。大学卒業後、10年ほど愛知県の大学病院で小児科と研修医として勤務していました。その後、父の体調不良がきっかけで関西に戻る必要が生じ、関西の二次医療機関で小児科立ち上げの仕事に携わりました。その病院は、大学病院時代と同様に重症から軽症まで幅広く診られる環境だったのですが、勤務医という立場では、やはり経営に深く関わることができません。小児科部門は、他の診療科に比べて採算部門と見なされにくいという側面もあり、自分の考える医療を実現しようとしても、病院側の意見と食い違いが生じることが増えてきました。経営側との考え方の不一致が大きくなり、「それなら自分でやるしかない」と思い、たけつな小児科クリニックを開業したという経緯です。
—ご自身の理想とする小児医療の実現を目指しての開業だったのですね。先生の専門領域についてお聞かせください。
基本的には一般小児科全般です。その中で、大学病院で長く携わっていた小児神経の分野、具体的には痙攣だけでなく、頭痛などの慢性的な症状を持つ患者さんも診ています。また、師事していた上司がアレルギー専門だったため、そのお手伝いをしていた経験からアレルギーも専門的に対応しています。加えて、開業してから特に力を入れているのが発達障害の分野です。発達に課題を持つお子さんを持つご家族が多く、困っていらっしゃる方が多いと感じたため、現在ではクリニックの重要な柱の一つとなっています。
—一般小児科という大きな枠組みの中に、小児神経やアレルギー、発達支援という専門的な領域があるのですね。
その通りです。一般小児科というのは、例えば風邪などの小児感染症も含め、全てを診る「箱」のようなものです。その中に、より専門的な小児神経、小児循環器、小児内分泌といった分野が内包されているというイメージです。
—開業されてから現在までで、最もご苦労されたエピソードついてお聞かせください。
開業してから8年目になりますが、その半分近くがコロナ禍での対応でした。誰も経験したことのない事態に対し、日々変わる国の制度に対応していくのは非常に苦労しました。ただ、事前に危機を予測して動いていた部分もあったため、なんとか乗り越えられたという状況です。 現在進行形でいえば、スタッフの労務管理に関わる部分ですね。現在、当クリニックには60名ほどのスタッフが在籍していますが、一般的なクリニックでは対応しきれない有給休暇の問題や、労務的な改善に苦労しています。また、ご存知のように、多くの病院やクリニックが厳しい経営状況にある中で、クリニックの経営を維持していくために、資金的な面でも日々奮闘しています。
—コロナ禍という未曾有の事態と、組織運営の両面で大変なご苦労があったのですね。一方で、クリニックを経営されていて、最も嬉しかったり、幸せを感じる瞬間はどのような時でしょうか?
これは、他の診療科ではなかなかないことかもしれません。小児科医は、生まれたての赤ちゃんから診察を始めます。私が医師になってから20年以上が経ちますが、診てきた子どもたちが、将来「竹綱先生みたいな小児科医になりたい」と言ってくれる子が複数いることです。彼らが未来の別のお子さんを診てくれる環境が生まれるのは、私にとって本当に嬉しく、頑張らなければならないという原動力になります。 特に印象的だったのは、診ていたある子が卒業式で将来の夢を発表する際に、「竹綱先生のような小児科医になりたい」と言ってくれたと、後でお母様から聞いた時ですね。また、修学旅行から帰ってきた時などに、お土産を買ってきてくれるなど、子どもたちとの心の通ったやり取りには、小児科医としての冥利に尽きる、この職業を選んで良かったと感じます。祖父から受け継いだ小児医療への情熱が、次の世代にも繋がっていることを実感できる瞬間です。
—経営者として大切にされている考え方やポリシーについてお聞かせください。
私たちのグループのスローガンは、「すべては子どもたちのために」です。この考え方を根幹に据えながら、まず一つは、60名ものスタッフの生活を守るということが大前提です。自分の利益を優先するのではなく、働いてくれている従業員の生活を安定させることが、経営者としての第一の責任です。 その上で、子どもたちやご家族の目線に立ち、彼らのことを最優先に考えて運営しています。例えば、診療時間外でも極力断らないというのもその一つです。そして、当然ながら事業を維持するためには利益も必要です。医療分野以外も含めた様々な事業を展開しているのは、グループ全体で安定した収益を確保し、子どもたちとそのご家族をサポートし続ける環境を創出するためです。
—子どもたちとそのご家族の幸せを最優先に考え、それを実現するための強固な経営基盤を構築されているのですね。今後のクリニック、そして事業全体のビジョンについてお聞かせください。
最終的な夢は、24時間365日、日本全国どこにいても、同じ質の小児医療が受けられる環境を創ることです。現在の日本には、地域によって小児医療の偏在性があります。例えば、大阪では24時間小児科医がどこかにいますが、奈良などでは小児科医が不在の日もあります。子どもが生まれるのはどこでも一緒であり、日本国民としての権利があるにもかかわらず、住む地域によって医療サービスに差が出るのは解消したいと考えています。 そのために、私は「47都道府県にたけつな小児科」を創るということを目標にしています。そして、これを実現するためには、クリニッックの診療だけでは得られない、莫大な資金が必要です。だからこそ、今、病児保育や発達支援、カフェ経営といった医療以外の事業にも積極的に取り組み、収益を上げています。そこで得た資金を、小児科クリニックの拡大に充てていくことで、この大きな目標を現実のものにしたいと考えているのです。
—それはまさに、小児医療の未来を担う壮大な計画ですね。日本全国の子どもたちを救いたいという熱い想いが伝わってきます。
そうですね。私は「家族」という形を維持することに強くこだわる人間です。私自身が離婚を経験していることもあり、ご家族を、そしてそのお子さんを守るという環境を創りたいという気持ちが強いのです。子どもたちの目は本当に綺麗で、その視線が曇らないよう、彼らの健やかな成長をサポートし、明るい未来を創りたい。それが、私が小児医療という道を選び、挑戦し続けている理由です。
—これから開業を志す先生方や、同じ境遇の先生方に向けたメッセージをお願いいたします。
今の医療業界、特に開業医を取り巻く環境は非常に厳しいと認識していただきたいです。開業は決して「楽な道」ではありませんし、時間やお金の面で安易な期待を持つべきではありません。強い志と、揺るぎない自分自身の軸を持って開業していただきたいです。 また、勤務医時代とは異なり、経営という側面が入ってきますので、医師としての知識以外に、労務や経済に関する勉強が不可欠になります。自分の思う通りの医療ができないという現実も認識した上で、開業することが大切です。 しかし、自分でルールを決め、自分の信じる医療を実践できるというのは、大きな喜びです。高い志を持ち、ご自身のルールで、地域社会を支える医療を提供していただければと思います。そして、何か困難に直面した時には、一人で抱え込まず、相談できる仲間や専門家を周りに置いておくことも重要です。
Profile
院長 竹綱 庸仁
奈良県生駒市にある「たけつな小児科クリニック」の院長を務める竹綱庸仁先生は、1978年生まれで、小児科医であった祖父の背中を見て育ち、幼少期より自然と医師の道を志されました。平成16年に愛知医科大学医学部を卒業後、同大学病院で臨床研修を修了。平成18年には同院の小児科に入局し、診療を通じて豊富な臨床経験を重ねられました。平成23年には愛知医科大学小児科の助教に就任し、診療のみならず後進の育成にも尽力。 平成25年には、生駒市の二次医療機関の小児科の立ち上げに従事し、地域医療にも深く携わられました。 そして、平成29年に地元・奈良県生駒市で「たけつな小児科クリニック」を開院。「子どもたちの未来のために」という理念のもと、診療だけでなく、病児保育、発達支援施設、子育て支援カフェなどを運営し、小児医療の枠を超えて地域全体の子育て支援に力を注がれています。