血液疾患と漢方に取り組む地域密着の診療所 玉嶋院長が語る医療の現場
2025.07.11
「血液内科は稀少な存在。だからこそ、浜松の地に根ざす意味がある」――地域医療の最前線を担う、専門医の想いとは?
玉嶋 血液内科・漢方診療所
院長 玉嶋 貞宏
静岡県浜松市にある「玉嶋 血液内科・漢方診療所」は、血液疾患と漢方治療という2つの専門分野を掲げる、全国的にも稀有な診療所だ。大学病院や総合病院で豊富な臨床経験を積んできた院長・玉嶋貞宏先生は、開業から十数年経った今も、診療に対する誠実な姿勢と探究心を失わない。 今回は、医師を志した原点から、開業に至るまでの経緯、そして日々の診療で大切にしていることまで――一貫して「患者に向き合う医療」を体現してきた先生に、その想いを語っていただいた。
—まず最初に、医師を志すようになったきっかけについてお聞かせいただけますか?
高校時代に祖父を病気で亡くした経験が大きな転機でした。身近な家族の死に直面したときに、「人の命に関わる仕事がしたい」という気持ちが強く芽生え、医師という道を志すようになりました。
—開業を決意されたのは、どのような経緯やタイミングだったのでしょうか?
開業を本格的に考えたのは平成23年の春頃です。当時、地域に血液内科を専門とする医療機関が非常に少ないことを実感し、そのニーズに応えるには、自ら開業して診療の場をつくることが必要だと考えました。
—ご自身の専門領域についても教えていただけますか?
専門は血液内科と漢方内科です。血液内科では、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、特発性血小板減少性紫斑病など、あらゆる血液疾患に対応しており、特に浜松市内では非常に稀な血液内科専門の診療所としての役割を担っています。漢方内科においては、西洋医学的な診断をふまえた上で、個々の体質や症状に応じたテーラーメイドの治療を実践しています。漢方専門医2名体制により、幅広い症状に対して漢方の力を活かした診療を行っています。
—診療を行う際に、意識されていることや気をつけている点があれば教えてください。
診療ではまず、西洋医学的な検査・診断を丁寧に行うことを最優先にしています。その上で、検査では異常が見つからないが不調が続く場合や、慢性的な症状がある場合には、体質に応じた漢方薬を取り入れる形で治療を行っています。症状によっては西洋医学の方が適していることもありますし、漢方が非常に効果的な場合もあります。西洋と東洋のバランスを見極めることを常に意識しています。
—人材の採用についてですが、これまで順調に進んでいらっしゃいますか?
現在は医師2名体制をはじめ、臨床検査技師、看護師、医療事務スタッフを含めた少人数のチームで診療を行っています。開業初期から診療に加わっている先生との連携もスムーズで、全体として安定した体制を維持できていると感じています。スタッフ一人ひとりが診療の流れをよく理解してくれているため、人材面での大きな課題はありません。
—現在、採用活動に苦労されている先生も多いのですが、これまでどのような方法でスタッフの採用をされてきましたか?
臨床検査技師や看護師、医療事務スタッフなど、必要に応じて段階的に人員を整えてきました。求人媒体の活用に加え、医療関係者の紹介を通じてご縁をいただいたケースもあります。限られた人数ながら、日々の診療がスムーズに進むよう工夫しています。
—また、人材教育において意識されていることや工夫されている点があれば教えてください。
血液内科や漢方は専門用語も多く、初めて接するスタッフにとってはなじみのない言葉も多い分野です。そのため、定期的な勉強会や口頭での共有を通じて、診療内容や疾患への理解を深めてもらうよう努めています。特に患者様の前での対応において、不安感を与えないよう、全員で知識をすり合わせる姿勢を大切にしています。
—これまでを振り返ってみて、開業してから現在までの間で一番大変だったことや、特に苦労されたエピソードがあれば伺いたいです。
大きな困難というよりは、日々の積み重ねの中で「こういう場合はどうすればよいのか」と迷う場面が多々ありました。開業初期は診療だけでなく、運営面でも判断を求められる場面が多く、不安に感じることもありましたが、医師2名体制で相談しながら解決策を見出していけたことは、とても心強かったと感じています。
—反対に、クリニックを経営される中で嬉しいと感じる瞬間や、やりがいを感じるのはどんなときでしょうか?
患者様から「ここに来てよかった」「先生の治療で楽になった」と言っていただけたときは、医師としても経営者としても本当に嬉しく感じます。何よりの励みになります。
—その一方で、クリニック経営ならではの難しさやご苦労もあるかと思いますが、いかがですか?
診療以外にも、経理や事務的な手続き、設備の維持管理など、運営に関わる業務が多岐にわたる点は、開業医としての負担のひとつです。診療に集中したい気持ちと、運営面で求められる判断のバランスを取るのが難しいと感じることもあります。少人数体制ゆえに、日常業務の細部まで自分たちで担う必要があり、その分一つひとつの業務に対する責任も大きいと実感しています。
—改めてお伺いしますが、御院の経営理念や大切にされている考え方についてお聞かせいただけますか?
「誠実な診療で地域に貢献する」ことが当院の根幹です。血液疾患における専門治療と、患者様の生活や体質に寄り添った漢方治療を通じて、多様な不調に対応する診療所でありたいと思っています。
—2〜3年後の将来を見据えて、どのようなクリニックにしていきたいとお考えでしょうか?
今後もこれまでと変わらず、地域に根ざした診療所として、血液内科・漢方内科それぞれの特性を活かしながら、患者様の多様なニーズに対応していけるよう努めたいと考えています。小規模ながらも質の高い医療を提供し、信頼される存在であり続けることが目標です。設備面でも、必要に応じて徐々に体制を充実させ、より柔軟な診療が行えるようにしていきたいと思っています。
—経営者という立場として、日頃から大切にしていることやポリシーがあれば教えてください。
診療の質を保ちながら、スタッフも患者様も安心できる環境を整えることを大切にしています。また、地域の医療機関との連携を通じて、必要なときに必要な医療を提供できる体制を維持していくことも大事なポリシーです。
—どういった患者様に来ていただきたいとお考えですか?
血液疾患を抱える方はもちろん、不定愁訴や慢性症状など、他院で明確な診断がつかずお悩みの方にも、漢方を通じた選択肢を提供できればと考えています。
—現状の集患について、理想と比べていかがでしょうか?まだ増やしていきたいというお気持ちはありますか?
日々安定して患者様に来院いただいていますが、専門性の高さゆえ、必要な方に届く情報発信をさらに強化していきたいと考えています。
—最近導入されたシステムやサービスの中で、これは良かったと思われるものがあれば教えてください。他院にもおすすめできるようなものがあればぜひ。
電子カルテの導入によって、業務の効率が大きく向上しました。特に血液内科では検査結果の推移を丁寧に追う必要があるため、データ連携による一元管理は非常に有用です。また、漢方診療においても患者様一人ひとりの体質や症状の記録を丁寧に蓄積できる点で、より的確な処方に役立っています。幅広い診療内容に対応するうえで、デジタルツールの活用は今後ますます重要になると感じています。
—最後に、先生ご自身の“夢”についてお伺いしたいです。医師として、また一人の人間として、どんな夢をお持ちですか?
「ここに来てよかった」と心から思っていただける診療所でありたいです。血液内科と漢方という2つの柱を活かし、患者様一人ひとりに寄り添いながら、信頼される医師・診療所であり続けることが私の夢です。
—ご経験をふまえて、これは“やらない方がいい”と感じたことがあれば教えてください。
周囲に流されて開業するのは避けた方が良いと思います。明確なビジョンがないと、途中で方向性がぶれてしまう可能性があります。
—逆に、“やってよかった”と思うことや、開業前に準備しておいて良かったことがあれば、教えてください。
「自分がどんな医療をしたいのか」「地域に何を届けたいのか」を徹底的に掘り下げることです。開業前にその問いに答えを出すことが非常に重要だと思います。
—最後に、これから開業を考えている先生方や、同じような立場の方に向けて、ぜひメッセージをお願いいたします。
「やりたい医療」と「求められている医療」を両立させることが、成功への鍵だと思います。自分の専門性や強みを活かした“アピールできる医療”を軸に据えた開業をおすすめします。苦労もありますが、患者様からの言葉ひとつで大きな喜びに変わります。
Profile
院長 玉嶋 貞宏
静岡県浜松市にある「玉嶋 血液内科・漢方診療所」は、血液疾患と漢方治療の2本柱を掲げる、全国でも数少ない専門診療所です。地域に根ざした医療を大切にしながら、患者様一人ひとりの声に丁寧に耳を傾ける姿勢が印象的でした。今回は、同院を支える玉嶋貞宏院長に、医師としての原点、専門分野への想い、そして今後の診療所のあり方についてお話を伺いました。穏やかな語り口の中に感じられたのは、医療に対する確かな信念と、地域への変わらぬまなざしでした。