Interviewインタビュー

外科医から地域のかかりつけ医へ--街に寄り添う新たな挑戦

とよだクリニック

院長 豊田 翔

「街の優しいお医者さん」への憧れを胸に、長年、外科医として第一線で活躍されてきた豊田クリニック院長の豊田 翔先生。 しかし、「働き方改革」と家族の誕生という大きな人生の転機を迎え、先生はこれまでのキャリアとは異なる「開業医」という道を選ばれました。 本インタビューでは、外科医としての高度な専門性と、幼少期に抱いた「地域に寄り添う医療」への思いを融合させた、豊田先生の医療哲学に迫ります。開業から約1年を経て見据えるクリニックの未来や、AI技術を積極的に取り入れた診療への考えなど、医師として、そして経営者として、新たな一歩を踏み出した先生の情熱とビジョンをお伺いしました。

地域に頼られるクリニックを目指して–豊田翔院長が語る、とよだクリニックの未来ビジョン

街の優しいお医者さんへの憧れ

先生が医師を志されたきっかけは何だったのでしょうか?

私が医師になろうと決めたのは、中学校くらいの頃です。実は、私が小さい頃に住んでいたアパートの2階がクリニックになっていまして、そこの先生がご近所さんでした。

ご近所のお医者さんがきっかけだったんですね。

はい。その先生が、うちの親とも仲が良かったこともあり、患者さんが来られている様子や、診察されている姿を拝見することがありました。それを見て、「街の優しいお医者さんっていいな」と、漠然と思っていました。

幼少期に、その先生のどんな点に特に惹かれたのでしょうか?

非常に優しい先生で、患者さんに慕われている様子が印象的でした。今でこそ、患者さんに寄り添う姿勢は当たり前かもしれませんが、当時は、少し厳格な先生が多い時代だったように思います。その中で、患者さんと笑顔で会話されている先生の人柄や優しさが、幼いながらに心に響きました。

転機となった「働き方改革」と家族の存在

医師としてご活躍されてきた中で、開業を決められた経緯やきっかけについて教えてください。

医学部に入り、様々な科をローテーションしていく中で、私は外科、特に消化器外科の分野に魅力を感じました。卒業後、免許を取得してからはずっと外科で、昨年開業する直前まで、主に手術を仕事にしてきました。 外科医として手術にやりがいを感じていたものの、心のどこかには、幼少期に憧れた「街の開業医の先生の姿」が残っていました。「いつか開業してみたい」という気持ちは、ずっと持ち続けていたんです。 そんな中で、開業の大きなきっかけとなったのが、医療業界にも適用されることになった「働き方改革」です。

「働き方改革」がどのように開業を後押ししたのでしょうか?

外科医は、手術や術後の管理などで、長い時間病院に詰めていることが多かったです。私自身も、朝から晩まで病院にいるような生活で、仕事に満足はしていました。しかし、「働き方改革」によって労働時間が制限されるようになると、私のように「もっと働きたい」と思っていても、病院のシステム上、以前と同じような働き方が難しくなってきました。 また、ちょうどその頃、結婚し、子どもが生まれたことも重なりました。新しい家族ができたことで、働き方や生活を考え直す機会が生まれ、「環境の変化に対応できる働き方」を求めて、開業という選択肢が現実味を帯びてきたんです。 「街の医師になりたい」という長年の志、そして「働き方改革」や家族との時間といった外的要因が重なり、40歳という節目のタイミングで、開業への一歩を踏み出すことになりました。

全身を診る「かかりつけ医」として

先生の専門領域と、クリニックで特に力を入れている診療について教えてください。

私の専門は、先ほどもお話しした通り、外科・腹部外科・消化器外科です。特に、消化器外科医としてお尻の病気(痔など)の手術も経験してきました。 クリニックでは、この経験を活かし、内科、外科、肛門外科を標榜しています。内科では、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)をはじめ、幅広い疾患を診ています。外科・肛門外科では、簡単な切り傷の縫合などの一般外科に加え、日帰りでの痔の手術も行っています。

外科医としてのご経験が、今の診療にどのように役立っていますか?

外科では、手術をする際にも、患者さんの全身の状態を深く理解する必要があります。高血圧や糖尿病といった内科的な持病、服用されている薬、年齢など、あらゆる側面を考慮しなければ、術後の管理(マネジメント)ができません。 そのため、外科医であっても内科的な知識は必須でした。クリニックでも、その経験を活かし、お腹の病気だけでなく、全身を総合的に診る「かかりつけ医」として、患者さん一人ひとりに寄り添った医療を提供しています。

医師から経営者へのシフト

開業されてから約1年が経ちましたが、この1年間で最も苦労されたエピソードがあれば教えてください。

最も苦労したのは、医師から院長兼経営者へと立場が変わったことによる、システムの切り替えです。 以前は、診療と治療に専念していれば良かったのですが、今は保険請求や税務といった、今まで全く知らなかったことまで対応しなければなりません。また、スタッフとの関わりにおいても、以前のような「雇われの勤務医」とは違う、経営者としての役割を担うことになりました。 患者さんの診療や治療自体は、これまでの経験を活かせる部分が多いですが、「本業以外の部分」での戸惑いや、勉強しなければならないことが非常に多く、その切り替えに苦労しました。

そのような中で、開業医として大切にされている経営理念やポリシーは何でしょうか?

当院の経営理念として掲げているのは、「一人ひとりに寄り添う」ということです。これは、患者さんに対してはもちろん、スタッフ同士、そしてお世話になる業者の方々も含め、関わる全ての人に寄り添うという意味で考えています。 また、経営者としてのポリシーは、スタッフとの間に「線」を引かないことです。院長ではありますが、皆が横並びの「仲間」として、わきあいあいと仕事ができる環境を大切にしています。このクリニックの「あたたかい雰囲気」が、そのまま患者さんにも伝わることを目指しています。

AI技術の積極的な導入

最近導入されたシステムやサービスで、「これは良かった」と感じているものはありますか?

医療の質と効率を両立させるために、AI技術を積極的に導入しています。 特に、AIを搭載した内視鏡(胃カメラ)のシステムと、AIレントゲン(胸部X線)の自動解析ソフトは非常に役立っています。

どのような点で役立っているのでしょうか?

胃カメラやレントゲンを撮影する際、もちろん私も自分の目で細部まで確認しますが、AIのソフトがリアルタイムで異常を検知し、知らせてくれます。 これは、私一人で診療を行っている中で、「見逃しを防ぐ」ダブルチェックの役割を果たしてくれるだけでなく、画像を確認する時間の短縮にもつながっています。限られた時間の中で、より多くの患者さんを、より高い精度で診るために、AIは欠かせない存在になっています。

先生の夢と未来の開業医へ向けたメッセージ

先生の今後の夢や、2〜3年後のクリニックのビジョンについてお聞かせください。

具体的な売上目標などはありますが、それよりも、このクリニックの土台をより強固にし、地域の方々に頼ってもらえる存在になることが目標です。 開業時に、今後の発展を見据えて、広い土地を選び、様々な設備を導入しました。この環境を最大限に活かし、地域の皆様に、今提供できている医療をさらに広げていきたいと考えています。子育て世代からご高齢の方まで、皆様に「困ったらとよだクリニックに行こう」と思っていただけるようなクリニックを目指していきます。 個人的な夢としては、仕事とプライベートを両立できるよう、「働くときはしっかり集中し、休むときはしっかり休む」体制を整えたいです。これは、私だけでなく、スタッフ全員が心身ともに健康でいられるような環境づくりも含まれています。皆が幸福を感じながら働けるクリニックにしたいですね。

最後に、これから開業を目指す先生方や、同じ境遇の先生方に向けたメッセージをお願いします。

これから開業を目指す先生は、「準備が大変だ」ということを覚悟しておいてください(笑)。 クリニックの場所探し、建築業者や設計士、銀行との融資の交渉など、医師としての仕事とは全く違う、様々な人々との連携や、決めなければならないことが山積みです。特に、「いついつまでに決めてほしい」という期限付きの課題が多いので、「できるだけ早く、その日のうちに決断する」ことが重要です。後回しにすると、どんどん積み重なってしまいます。 大変ではありますが、その未知の領域での仕事を「楽しみながら」進められたら、乗り越えられるはずです。私自身、勤務医の仕事と並行して開業準備を進めていましたが、今振り返ると、「やってよかった」と心から思えます。ぜひ、普段の仕事とは違う新しい分野への挑戦を楽しんで、目標に向かって進んでください。

Profile

院長 豊田 翔

大阪府羽曳野市にある「とよだクリニック」の院長・豊田翔先生は、外科医としての豊富な経験を活かし、地域に根ざした医療を実践しています。大阪市立大学医学部医学科に進学し、2009年に卒業。同年よりベルランド総合病院で初期研修を開始し、その後外科後期研修医、副医長、医長を歴任しました。消化器外科を中心に、数多くの手術や診療に携わりながら、全身を診る視点を培ってきました。2024年9月、かねてからの目標であった「街のかかりつけ医」を形にすべく、とよだクリニックを開院。内科・外科・肛門外科を幅広く診療し、患者一人ひとりに寄り添う温かい医療を大切にしています。

会社情報

医院名

とよだクリニック

設立

2024年