地域に根差した「医療完結型」クリニックへの挑戦–田中整形外科まりこ眼科 田中 稔一郎インタビュー
2026.03.04
100年先も、この街の「当たり前」でありたい。しらみず診療所 院長が描く地域医療の未来
しらみず診療所
院長 白水 雅彦
佐賀市駅前中央に位置する「しらみず診療所」。1999年に開院したこの場所を2022年に継承したのが、二代目院長の白水 雅彦先生です。白水先生は、沖縄の離島での一人診療所経験や北海道での家庭医療研修を経て、故郷である佐賀に戻ってきました。先生が掲げるのは、単なる「病気を治す場所」としてのクリニックではなく、地域の人々が100年先も安心して通い続けられる「暮らしの拠点」としてのあり方です。医師という枠に留まらず、経営者・教育者としての視点を持ち、スタッフと共に「幸せになれる場」を模索し続ける白水先生。今回は、しらみず診療所が目指すビジョンや、地域医療にかける想いなどにお話を伺いました。
—さっそくですが、白水先生が医師を志したきっかけについて教えてください。
元々は父が医師として開業していたので、幼い頃からその背中を見ていたことが選択肢としてありました。高校時代はサッカーに明け暮れていて、大怪我を機に一度は建築家を目指したこともありましたが、兄が先に建築の道へ進んだことで「同じ道は嫌だな」と思いました(笑)。そして改めて身近にあった医師という職業を見つめ直した時、非常に面白そうだと感じ医学部への進学を決めました。
—お父様の後を継ぎ、佐賀に戻ってこられた経緯をお聞かせください。
沖縄の離島や北海道で「家庭医」としての研鑽を積んでいた頃、父が倒れたという知らせが入りました。それまでは自分のキャリアを追求していましたが、父が築いてきたこの場所をどうするかと考えた時、やはり「帰らないと」という思いが強くなり、佐賀へ戻って継承する道を選びました。
—実際に継承されて、どのような想いで医療に向き合っていますか?
父の代からの歴史を大切にしつつ、自分が学んできたプライマリ・ケアをこの佐賀の地でどう形にするかを常に考えています。単に技術を提供するだけでなく地域の方々の生活に溶け込み、地域医療に貢献していきたいという強い意志を持って取り組んでいます。
—診療の際に、先生が特に意識されているポイントはどこでしょうか?
患者さんが医療を選択するというのは人生における大きな決断です。だからこそ、我々は「選択肢をフラットに持ってもらうこと」を大切にしています。言葉選び一つからお話しする順番、さらには空間のデザインに至るまで患者さんが納得して選べるような「余白」を作ることを意識しています。
—「知ってもらって選んでもらう」というプロセスを重視されているのですね。
はい。医療者の意見を押し付けるのではなく、患者さん自身にしっかり理解していただいた上で選んでいただく。そのための対話を何より大切にしていますし、それが「しらみず診療所」らしい診療のスタイルだと思っています。
—訪問診療や家庭医療に注力されている理由は何ですか?
専門医の集団である病院とは違い、クリニックの強みは「その人の生活に近い場所」で総合的に診られることです。外来診療だけでなく在宅まで含めて、生まれてから亡くなるまでの人生のプロセスに寄り添うことが家庭医としての本分だと考えているからです。
—スタッフの方々とはどのようなビジョンを共有されていますか?
うちのミッションは「赤ちゃんからお年寄りまで、全ての人がその人らしく安心し、幸せになれる場を創ること」です。これは患者さんだけでなく、働くスタッフ、他事業所など関わる全ての人にとっても「いい感じ(ウェルビーイング)」であってほしいという願いが込められています。
—スタッフの成長を実感されるのはどのような時ですか?
スタッフが自ら仕事を見つけ、クリニックのビジョンに沿ったアクションを自発的に起こしてくれた時ですね。以前、やりたいことが見つからなかった子がうちを通過することで自分の道を見つけ、笑顔で卒業していったことがありました。そうした成長が見える瞬間は経営者として何より嬉しいですね。
—医療現場でありながら「スタートアップ企業」のような雰囲気を感じます。
まさにスタッフからも「ここは病院というより会社だ」と言われます。ルールを固定化せず、良いものがあればディスカッションし医療業界以外からも積極的に人材を採用しています。多様な視点を入れることで、組織としての余白や対話の土壌を作っています。
—「100年先まで当たり前にある場所」という言葉にはどんな想いがありますか?
子供の頃に風邪で通っていた子が大人になり、親になり、やがておじいちゃんになっても安心して通い続けられる。そんな日常の一部として「当たり前にそこにある」環境を作りたいです。100年先も佐賀の人々を支え続けるインフラでありたいと考えています。
—佐賀からの人材流出という課題に対しても具体的な構想をお持ちですね。
佐賀は一定数育つと県外へ出てしまう傾向がありますが、私は「佐賀の教育モデル」を作りたいと考えています。医師だけでなく看護師や事務職も含め、地域でプライマリ・ケアを学びキャリアアップできる環境を整えることで、一度外へ出た人も戻ってきたくなるような場所にしたいですね。
—これから開業を目指す、あるいは地域医療を志す医師へメッセージをお願いします。
ぜひ「医者じゃない世界」を見て多様な視点を持ってほしいです。医療の常識だけでは、経営や組織運営で行き詰まることがあります。他業種の経営者と対等に語れる知識を養い、臨床・経営・教育の三輪を回していくことがこれからの地域医療を面白くする鍵になると思います。
Profile
院長 白水 雅彦
1999年に父が開設した「しらみず診療所」を2022年に継承。2014年より沖縄県立南部医療センター・こども医療センターにて初期研修後、2018年には同センター附属渡名喜診療所にて、離島医療を経験。2020年からは医療法人北海道家庭医療学センター 本輪西ファミリークリニックにて家庭医療の研鑽を積む。現在は、佐賀市において「赤ちゃんからお年寄りまで」を支えるプライマリ・ケアを実践。医療を「生活の一部」と捉え、外来から在宅までシームレスに提供する傍ら、組織マネジメントや教育システムの構築にも注力している。